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【官能演習その五:異性と一夜を共にする】
寝間着の女性というものを、俺は初めて見た。薄い黄色に、可愛らしい猫のマークが散りばめられている。明らかに普段と違う雰囲気をまとっていて、一瞬、別人かと思った。
「さあ、共に寝ましょう!」
「やっぱり小鳥遊か……」
「どうして残念そうな顔をしているのです?」
「何でもねえよ」
これから二人で、同じベッドで眠る。
少しは緊張も感じていたが、それ以上に俺は安堵していた。なんと言っても俺たちには胸を触ったり触られたりした経験がある。それに比べたら、今回は間違いなく楽勝だ。ただ隣で寝ればいいだけなんだから。
夜の十一時。寝るには早い時間ではあるが、彼女にとってはベストのタイミングらしい。すでに若干眠そうな目をしている。
電気を消して、部屋の全体が薄暗くなる。
「それでは、お先にどうぞ」
「へいへい」
俺はベッドに潜り込む。毛布がふんわりと暖かい。普段小鳥遊が寝ているベッドで……みたいな感慨は俺にはない。ないと言ったらないのだ。
「失礼します」
彼女は一言断って、おずおずとベッドの中に入ってきた。セミダブルサイズのベッドだ、体が微妙に触れ合う。彼女の体温が伝わってきて、同時に何だか良い香りもした。
感慨はない。ないと言ったらない。
そう、さっさと寝てしまおう。それに限る。
俺は目をぎゅっとつむって羊を数え始めた。
一匹、二匹、三匹……。
七九五匹、七九六匹、七九七匹……。
寝れねえ。
そもそも十一時に寝ようってのが間違いなんだ。全く眠くならない。
どれくらい時間が経ったのだろうか。
そのときだった。
ゴソ、ゴソと隣で動く気配がした。
小鳥遊、寝てなかったのか?
彼女の体温が遠のく。ベッドから出たらしい。トイレにでも行くのだろうか。
しかしドアの音は聞こえないままだ。
「高城さん」
小さな声で、小鳥遊が呼びかける。
俺は返事をしなかった。
「高城さん、起きているのでしょう、高城さん」
「……何だよ」
俺は起き上がって彼女を見た。
彼女は何一つ身にまとっていなかった。
俺は絶句する。先日胸は見たばかりだが、下半身までは当然見てはいない。それに、今彼女が素っ裸になるシチュエーションというものに理性がついていけなかった。
「ど、どうしたんだ、小鳥遊」
「高城さん、『一夜を共にする』ってどういう意味か、わかりますか」
「一緒に寝るってことだろ」
「違いますよ」
そう言って彼女は微笑んだ。
……俺だって、気づいていた。気づいていて、知らないふりをしていた。
彼女にとって、一夜を共にするということは、すなわち性行為をするということなのだ。
「では、しましょうか、高城さん」
言うやいなや、彼女は毛布をはぎ、ベッドに倒れ込み、俺の上にのしかかってきた。柔らかな感触が俺の前進を包む。良い香りが、ますます強くなっていた。
「やめろ、小鳥遊」
「やめません」
「やめろって言ってんだ!」
「どうしてですか!」
「だってあんた、泣いてるじゃねえか!」
「え?」
彼女の右目から、つうっと涙が流れ落ちていた。
俺は両腕に力を込め、彼女を丁寧に引き剥がす。そして彼女に声を掛けた。
「とりあえず、服着ろ」
「……」
彼女は泣いている自分に呆然としているようだった。泣いていることに気づかなかったという事実そのものが、状況の異常さを示しているのだと思った。
彼女は何も言わないまま服を着た。もう涙は止まっていた。
「今はとにかく、寝るぞ。話は明日だ」
「……はい」
俺はベッドに入り直すと、目をぎゅっとつむって、羊を数え始めた。やや間があって、彼女の体が俺の側面に当たった。
黙々と羊を数え続ける。
眠気など微塵も感じなかったが、それでも俺は無理矢理眠った。




