EX1 「納豆の臭いがします……」
クリスマス
買い物を終え、今晩の材料が満載されたエコバッグを持ったまま、店舗を歩き回っている。
大型総合スーパー。数多の店舗を内包した商店のアパート。
ここに来るだけで、生活に必要なものから、娯楽・調度品まで揃えられる。少々割高だが。
「あ! 大吾じゃない。こんなところで何してるのよ」
私生活でも白衣を纏っている天地博士は、明らかに周囲から浮いている。博士もスーパーで買ったであろう食材を手に持っているので、より際立っている。
この人はそういうことを気にしない人だし、順当かな。
「それはこちらの台詞ですよ。いつもは防衛所に引きこもっているじゃないですか」
天地博士は顎に手をやり、少し考えた後に口を開いた。
「クリスマスも近いし、プレゼントでもしようかなって」
「え? プレゼントする相手がいたんですか?」
「酷くない? 防衛所のみんながいるし!」
基本ぼっちである天地博士だが、防衛所の仲間という強力な免罪符を得た。
それはとてもいいことだ。ひとちぼっちは寂しいからな。
「俺も似たようなものですよ。晴香に何か買ってやろうと思いまして」
正直、今月も借金返済のために家計が苦しい。
だが、こんなイベントにプレゼント無しとは甲斐性がない。
「というわけで、おもちゃ屋に行きましょう」
「晴香ちゃん相手には幼稚すぎるんじゃない?」
「まあまあ、ちょっと見るだけですよ」
天地博士の手を取って、おもちゃ屋に向かう。
スーパー内でも広いほうに分類されるおもちゃ屋に到着する。
入り口は広く、壁際には大量の玩具が並んでいる。クリスマスで現愚を売るために過剰なほどの装飾で彩られいる。
商戦真っ只中といった感じだ。
「思ったより大きいわね。正直、驚いてるわ」
「最近は地元のおもちゃ屋さんがなくなって、こういう店舗じゃないとおもちゃが買えないんですよ。だから、集中してしまうんです」
入り口近くの商品を手に取る。
この辺りは売れ筋が並んでいることがおおい。
「博士、見てください。これ、『激震』ですよ」
「え? 激震てロボット愛子会の奴でしょ? って、意外と出来がいいわね」
超合金 激震
見本が置かれており、手にとって見ることが出来る。ずっしりとした確かな重量に細かなディティールはもちろん、武器である『小槌』も完全再現されている。
「知ってます? 今は空前のスーパーロボットブームなんですよ」
「ふーん」
天地博士の興味ない態度に対して、逆にテンションがあがってくる。
これはロボット好きの性といえるのではないだろうか。
「アニメはもちろん、特撮、漫画、ドラマ、さらには映画まで大ヒットなんです」
「まって、まだ3ヶ月しか経ってないわよね。ちょっとブームになるの、早過ぎない?」
「ははは、そうですね。誰かが影でブームを引っ張ってるのかもしれないですね。実はスーパーロボットの活躍を事前に知っていたとか」
「そんなことはないでしょ」
天地博士と一緒に笑い飛ばす。
そんな事はあるわけないだろう。ロボット愛好会も突然登場してきた訳だし。
「あ、見てください! ボウエイオーのプラモがありますよ! 1/210スケールのやつが!」
天地博士はよく知らないのか、スケールというがピンと来ずに頭をかしげていた。
「ボウエイオーなら、何時でも見えるじゃない」
「それと、これとは、話が別ですよ。細部まで再現された各パーツは実物よりも格好いいものなんですよ」
実機とモデル。実用性と観賞用。
それは似て非なるモノだ。関心のない人にはわからないだろうが。
「俺、ちょっと買ってきます」
「えー、そんなの買うの? お金とか大丈夫?」
少し動きが止まる。
先から家計が苦しいとわかっていても、これだけは手にいておきたい。
その衝動は誰にも止められない。
「今月のメインメニューはもやしにします!」
プラモの箱を手に取るとレジへと直行した。
※
「「「メリークリスマス!」」」
パパパン とクラッカーを鳴らす。
防衛所の居間に全員が集合している。(マイナス、所長)
狭くてこたつが一つしかない場所だが、がらんとしているよりは楽しい。
こたつの上にはチキンが置かれており、実にクリスマスらしい。
みんなもノリがよく、全員で謎のとんがり帽子を被っている。この帽子はどういう意味があるのだろうか。
「クリスマスで、こういったパーティーとか、初めてだ!」
かなりテンションの上がった愛子がチキンを齧りながら楽しそうにしている。
レディースのチームでこういったことはやらなかったのだろうか。いや、あの集まりなら「そんなちゃらちゃらしたことはやらないんだぜ」とか言っていそうだ。
「んー、私も久しぶりかなー。こういった行事に参加することが少なかったですしねー。あまり家族と一緒にいなかったしー」
案外、クリスマスで楽しい思い出がない人ばかりだ。
子供の時はプレゼントとか貰って喜んでいた覚えがあるのだが。
「私は兄さんと一緒なら何でもいいです」
晴香がぴったりとくっついてくる。
俺が家に寄り付かない事が多かったし、晴香には寂しい思いをさせてしまったようだ。
これからは、もっと甘やかしてやらないといけない。
「うん、うん。いいよね。好きな人と一緒にいられるのって」
愛子は晴香に同調しながらも、チキンを齧っている。
色気より、食い気といった感じだ。
「私もクリスマスという行事は初めてだ。こんなに楽しいものだったはな」
犬用のチキンを齧りながら、センセイは感動している。
当然センセイにもとんがり帽子を被せてある。何事も仲間はずれはよくない。(なお、マイナス所長)
「さて、そろそろね……」
天地博士は盛り上がるこのタイミングを見計らって、ごそごそと何かを取り出した。
「じゃじゃーん! クリスマスケーキよ! なんと言っても私の手作り、美味しいこと間違いなし!」
博士は両手でケーキを掲げて、満足そうな顔をしている。
この前スーパーで買っていたものは、このケーキのためだったのか。
「じゃあー、あらかじめ買っておいたこのケーキを食べましょうねー」
「賛成っす!」
「師匠のケーキなら外れはなさそうです」
ケーキを掲げたままの天地博士を置いて、3人は買ってきたケーキでわいわいと騒いでいる。
「ちょっと! 無視しないでくれる!? 私、手作り!」
「日頃の行いのせいですよ。何度酷い目に遭っていると思っているんですか」
こちらは頭が痛くて仕方がない。
過去の実績があまりにも酷すぎる。フォローのしようがない。
「ちょっと、大吾~! 食べてみてって、美味しいから!」
「あまりくっついてこないで下さい。一口くらいなら食べてあげますよ」
あまりにも不憫な天地博士に温情をかけてやる。これが慈悲というものだ。
覚悟を決めて、博士のケーキを口に入れる。
「な……」
「……な?」
「納豆の臭いがします……」
なんで、生クリームばかりのケーキに納豆の臭いがするのか、理解できない。
頭がそのような現象を拒んでいるかのように、冷や汗が出てきた。
「嘘! そんなはずは――って、本当に納豆臭い」
作った本人までも認めてしまった。
「いや、作ったときは美味しかったのよ、味見もしたのよ。」
なら、時限性だ。
時間が経つことにより、発酵したのだろう。いったい、何を原料に使ったのだろう。
「ケーキを切り終えましたよー。早く食べましょうねー」
雪絵さん言葉が聞こえていないのか、博士はうんうんと頭を捻っていた。
「大吾ー。早く取らないと、いちご貰うぞ」
「おい! それ、一番美味しいところだろ!」
こたつの上に並んだケーキを手に取る。
「あー! 私も! 私も!」
結局、市販のケーキが一番だった。




