第41話 「ホモではないことは断言しておきます」
あらすじ
こたつのある優しい世界
居間にこたつが導入され、寒さも本格化し、日本防衛所のメンバーはいつも以上に居間へ集まるようになっていた。
長机とパイプ椅子の部屋以外にはエアコンが設置されており暖かいはずなのだが、こたつの温もりには勝てないようだ。
そして、今こたつの上に卓上カセットコンロが置かれ、その上には鉄の鍋が鎮座していた。
何故こんな事になったかというと――
「寒くなってきたし、すき焼きパーティーするわよ!」
いつもの天地博士の悪乗りだった。
あの人は思いつきでの行動が過ぎる。が、今回はその提案を快く受け入れた。俺はもちろん、他のメンバーも同様だ。
「大吾ちゃん、早く作ってー」
「お前なら楽勝だろ?」
「兄さんのすき焼き……」
みんなで鍋を囲み、これから出来るであろうすき焼きに心躍らせる。
かくいう俺も例に漏れず喜びに満ちている。
牛肉が食べられるだけでなく、すき焼きという最強の鍋料理をタダで食べられるのだ。こんなに嬉しいことはない。
「あ、今回作るすき焼きは何風にします? 関東風か関西風ありますけど」
「ん? すき焼きといったら、すき焼きでしょ。関東とか関西ってなんなのよ」
「作り方に違いがあるんですよ。簡単に言いますと、関東は最初から鍋で煮込む。関西は最初に肉を焼いて食べるんです」
へぇ、と気のない返事が返ってくる。
俺以外は特に感心がないようだ。
「でもー、関東と関西でカップ麺のスープの味が違うって聞いた事がありますねー」
「あー、そんなのもあったわね」
詳しくはWEBで。
「ここは中部だから、どちらの味かな?」
「別にどうでもいいですよね。それより、すき焼き食べたいです」
愛子の疑問を晴香が一蹴した。
相変わらず、愛子には厳しい。そこまで毛嫌いすることもないと思うが、思春期だし仕方ないのかもしれない。
「春香ちゃんの言うとおり、そんなの関係ないわ! 今すぐすき焼きにするわよ!」
よそに置かれた食材を確認してみる。
牛肉、白菜、えのき、しいたけ、長ネギ、しらたき、焼き豆腐。
見て気付いたが、5人分にしては牛肉が少ない。
「牛肉、足りなんじゃないですか?」
「それはわざとよ。5人もいるんだから、牛肉を奪い合うのよ! 牛肉とは奪い合うもの!」
その言葉に天地博士へ視線が集まる。ただの視線ではない、恨みのこもった睨みだった。
このままでは戦争に発展しかねない。関西風だと牛肉が足りなくなってしまう。ここは関東風で煮込むことにしよう。
先ずは牛脂で油をぬった鍋に牛肉を投下。ある程度焼けたら、他の具を投入する。
割り下を入れ、蓋をして、少し煮込む。
「大吾ちゃん、意外と手際がいいですねー」
「いつも料理作ってますから」
突如、背筋に寒気を感じた。この正体はすぐにわかった。
「ふーん、そうなのね」
「それは、意外だな」
「凄いですねー」
この女性に囲まれている中で、一番女子力が高い俺に危機感を覚えると同時に、恨めしく思っているのだろう。
ここは無視しておくことにする。
「さてー、煮込んでいる間に大吾ちゃんにズバリ聞きましょー」
「大吾は、このメンバーの中で誰が好きなんだ?」
雪絵さんと愛子がノリノリで答え難いことを聞いてくる。天地博士も興味深々といった様子だし、晴香はすました顔で聞き耳を立てている。
最近、ラブが少ないからこんな話に流れてきたのか……。
「そうですね。特別に好きって感情は持ってません」
よし、無難な返事。みんなが好きだとか、特定の人物の名前を挙げるとか、そんな愚を冒すようなことはしない。
もう、ラブコメ系主人公は卒業だな。
「強いて言うなら、誰?」
天地博士がぐいぐい来る。
なんとしてでも言わせようとする鋼の意思が伝わってくる。
これは、何を言っても気まずくなるパターンだ。こんな戦火の火種を作るだけのトークに何の意味があろうか。
ここはさらに無難で、納得してもらえる解を導き出さなければ……。
「そうですね。強いて言うなら、妹の晴香ですね。妹が嫌いな兄はいません。たまに、現実の妹はろくでもないとかい言う輩がいるらしいですが、それは嘘です。そんな兄も心の奥底で好ましく思っているというもの」
いかん。つい熱が入ってしまった。
妹の話になると、我を失うことがあるようだ。
「うん。私はいつでも兄さんの妹だから」
晴香がぴったりと、こちらに張り付いてくる。
可愛い奴め。
「「「……」」」
3人から視線を感じる。
これは間違いなく納得していない。この場を乗り切る手段は無いものか。
「そうじゃなくて、1人の女性としてよ!」
向こうはこちらに色々と吐かせたいらしいが、こちらは本気でそういった感情はない。
困ったことになった。
「正直、誰にも――」
「いいー? この中の4人からよー」
退路を断たれた。
3人の表情が尋常でない。鬼か何かに憑りつかれたかのような鬼気迫るものを感じる。
これは、正気ではない。
もっと正常な判断を出来るように、こちらからクールダウンしてやる必要がある。
「大吾、あんたはあたしの恋人だから、当然、あたしだろ?」
ああ、レディース時代のメンチを切るような顔をしている。今すぐでも暴力に訴えてきそうだ。
俺は男女平等を貫いているが、愛子相手にはやりにくい。(しないとは言ってない)
「やっぱりー、お姉さんキャラがー、一番ですよねー」
静かな闘志を秘めた笑顔。
いつものツッコミを鑑みるに、正直怖い。
どんなことを言ってこちらの心を折に来るかわからない。
「やっぱり、このセクシーボディーの天地博士しかいないわよね!」
やたら胸を強調してくる。
確かにこの中では最もバランスの取れたモデル体形をしている。が、外見はあまり重視していない。それに、年増はちょっと……。
「私は兄さんが好き」
晴香が一番癒される。が、もし、他の人を名前を挙げれば、その人がどうなるかわからない。
包丁を持って迫ることは無いだろうが、丑の刻参りくらいはやりそうで怖い。
正直、誰を選んでも言い結果にはならない。ならば――
「俺、ちょっと興味がないです。今はそれどころではないというか、考えられないっていうか」
人を好きになる余裕が無いということを言いたかった。
正直、借金を負っている身であるし、祖父の件もある。そいう色恋沙汰は身辺整理が済んでからだろう。
4人は少しの間、静かになったが、すぐにざわめきだした。
「何? やっぱり、大吾って、ホモなの?」
「ちなみにー、ホモサピエンスの方のホモじゃないわよー」
そう思われることも致し方なしと思っていたが、やっぱりって何だよ。
俺も立派な成人男性。女性に劣情を抱く程度の健全な男のはずだ。
だが、確かにそう言われても否定できない部分もある。所長とはロボット仲間で仲が良いが、女性陣とはそう言った話で盛り上がったことはないし……。
でも、愛子とデートとかしたし。そこまででは言われる程ではないはずだ。
「ホモではないことは断言しておきます」
こう言うしかない。
他に手段がない。
誠心誠意伝えるしかない。
「そんなことより、すき焼きが完成しましたよ。みんなで食べましょう」
みんなは「はーい」と言いながら、鍋を突き始めた。
さっきの質問群は、何処までが本気なのかわからない。まあ、同性愛に目覚めていない事だけでもわかってもらえたらいいかと、心の底からおもう。
「うりゃあ! 牛肉総取りよ!」
鍋の牛肉は天地博士の手によってすべて取られてしまった。肉が集まっている所をガバッと持っていかれた。
最初からこのつもりだったのだろう。汚い手を使う。
「はぁ、しょうがない。俺たちは野菜でも食べて温まるか」
「そうですねー、野菜も十分美味しいですしねー」
「あたしはしいたけ貰うかな」
「兄さんの手料理なら何でもいい」
天地博士は無視されたかの如く、すき焼きを突いて盛り上がる。
「肉……」
「天地博士は、肉を沢山食べていましょうねー」
雪絵さんは結構エグい事を言いながら、野菜を自分の器によそう。
「わ、私も野菜食べるー!」
天地博士が取った牛肉はみんなへ平等に配りなおされました。
こういった鍋は、みんな仲良く食べましょう。
後日、俺がホモではないことを証明するために、秘蔵のエロ本を提出しました。
内容? それはここでは言えない。




