第40話 「奴らは存在してはいけない! 絶滅しても誰も困らない! 殲滅すべきだ!」
あらすじ
味覚崩壊のお知らせ
最近、寒さが本格的になってきており、居間でシミュレータで訓練するのが辛くなってきた。指先が冷たく思ったように動かせないときがある。こんな状態ではろくな訓練にならない。
「居間も寒くなってきましたねー」
ちゃぶ台でかりんとうを食べる雪絵さんも同じようなことを考えているらしい。やはり、プレハブ小屋。寒さが直に襲ってくる。
安アパート並みに酷い状況になっている。
「ここはこたつの出番ね!」
あったかいお茶を湯飲みで飲んでいた天地博士が立ち上がり、白衣を翻した。この人は、このポーズを取らなくては気がすまないのだろうか。
「こたつ! いいじゃないですか! 早く出しましょうよ」
こたつという単語にかぶりつく愛子。今日はビル群をバックに「CITY」と文字がプリントされている。これのどこに興味が惹かれるのか、ちょっとわからない。
「こたつは物置にあったはず。さあ、大吾、こたつを持ってきなさい」
物置――確か、荷物で足の踏み場も無い部屋があった。そこに行ってこたつを持ってこいと? あの何処に何があるかもわからない部屋から?
「大吾もこたつに入りたいだろ」
悔しいが、愛子の言うとおりだ。このままでは寒さにやられてしまう。
「わかりました。愛子も手伝えよ、お前は体力あるんだから」
「おっけー」
軽いノリで物置に向かったものの、そこはちょっとした秘境だった。
2人で呆然としたが、こたつの為にも頑張るしかなかった。
物置を捜索すること、3時間。
我々は目的のものを手に入れた。この建物プレハブなのに、何年前から立っていたのか不思議でならない。
そんなことより、今はこたつだ。
こたつ本体、敷布団、こたつ布団の点をお持ち帰りし、居間へと戻ってくる。
「お疲れさまー」
「兄さん、ただいま」
一緒に暮らしているはずなのに、久しぶりに晴香を見た。
もう、高校から帰宅する時間になったのか。
「挨拶はいいから、さっさとこたつをセッティングするわよ」
雪絵さんと愛子がこたつの準備を始めた。天地博士は相変わらず見ているだけだ。
「そんなことより、布団は干さないんですか?」
俺の言葉に一同が動かなくなる。
これこそ、空気読めといわんばかりの視線を感じる。が、ここは譲れない。
「この世には越冬する虫がいるって知ってますか?」
皆が何を言っているのかという目でこちらを見てくる。それに応えるように、言葉を続ける。
「つまり、ゴキブリ、ムカデ、カメムシは暖かくなると、活動を再開します」
「それってー……」
そう、それは、布団に奴らが引っ付いていると、こたつで上がった気温によって活動を始める。
奴らは冬でも出没するということだ。
「兄さん、ムカデ苦手だから」
「なになに? ムカデとか怖いの?」
天地博士はぷーくすくすと、笑っているがこちらは笑えない。
ここは、その恐怖を教えなければならない。
「奴を侮ってはいけません。あの無数の足でうねうねと動くその醜悪さに加え、刺してくるという凶暴性。もし、腕なんかに引っ付いてうねうねと這いずり回られると、鳥肌を越えるほどの背筋を走るおぞましい感触――」
一同の顔が少しずつ強張っていくのがわかる。
ムカデの怖さはこんなものではない。
「あいつらは、凍殺スプレーで凍らせても、温度が上がれば動き出すし、体を真っ二つにしても平気で動き続けるアルティメットシング。我々はその恐怖に怯えながら生き続けるしかないのです」
話が終わると、お互いに顔を見合って、ほっとしたのか、笑顔が戻ってくる。
「その程度、大した事じゃないですよねー」
「あたしはゴキブリの方が嫌かな」
そういいつつも、全員目が笑っていない。
「だいたい、そんなに怖いものじゃないでしょうに……」
「――甘い!」
俺は一喝した。
「もし、ですよ。もし、病院で点滴をうってもらっている最中に落ちて来たらどうするんですか! 手で振り払おうとも手には針が刺さっているんですよ! 何もできずに奴らに蹂躙されるしかないんです! 下手に動けば針が深く刺さり、どうなることか……」
背筋が寒くなる思いで恐怖体験を語る。
「奴らは存在してはいけない! 絶滅しても誰も困らない! 殲滅すべきだ!」
「ちょっと、大吾ちゃん、落ち着いてー」
「落ち着ける訳が無いじゃないですか! 奴らは抹殺あるのみ、二度と俺の前に現れるな!」
とにかく、もうムカデとは会いたくない。遭遇した際の記憶が蘇ってくる。
「ムカデ殺すべし!」
「何? 何が起こってるの?」
「兄さんはムカデ絶対殺すマンだから、そっとしてあげてください」
「殺すマンって何?」
※
暫くして、俺は正気に戻った。
自分の痴態を見せてしまい。恥ずかしい限りだ。
「すみません。少し取り乱しました」
「ちょっとってレベルじゃなかったけどねー」
「喉を掻き毟って死ぬんじゃないかと思ったぞ」
軽く頭を下げる。
それにしても、結構辛らつな言葉しかくれない。寂しい。
「まあ、気になるならこの消臭スプレーでもかけておけばいいんじゃない? ほら、除菌とか書いてあるし」
スプレーをしようとした天地博士の腕を掴む。
「奴らは湿気を好むんです」
「え? あ、うん」
天地博士も理解してくれたようで、何よりだ。
俺の意見を取り入れてくれたようで、布団は一度干すことになった。
※
ということで、ようやくこたつが設置された。
これで、寒さとはおさらば。暖かいこたつライフが約束された。
「それじゃあ、入るわよ!」
天地博士の号令で皆が一斉にこたつに入る。
すると、足の先にもぞもぞと蠢くなにかの感触。
他の顔を見ると、表情に恐怖が張り付いていた。これは、まさか――
全員がこたつの中から飛び出して、その中を確認する。
そこには、丸まっているセンセイがいた。
「なんだ、センセイじゃないですか」
「これなら、安心ですねー」
センセイを暖かい目で眺めながら、心温まる想いが湧き上がる。
ここは誰もが身体も心も温まる素敵な世界。




