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第23話 「自爆よ! 自爆はロマン! 自爆スイッチぽちっとな!」

あらすじ

尾行失敗

「大吾はどんな武器が好き?」

「は? 何、藪から棒に言ってんですか」

「ボウエイオーの新武器とか考えてるのよ。何かいいアイディアある?」


 居間で休憩していると、天地博士はそんな事を言いながら、ちゃぶ台の席に座る。だらしなく両足を開く天地博士に、正座をしながら、スティッククッキーを齧る雪絵さん、胡坐をかきながらあくびをしている愛子、俺にずっと引っ付いている晴香、眠ったように見えるセンセイは耳をこちらに向けて聞き耳を立てている。

 天地博士はどこかにある研究室にこもってたまに休憩に来る。いつもお菓子を食べている雪絵さんに、出撃がないので暇になっている愛子、晴香は――学校のはずだが、タイミングよくメンバーが揃ったわけだ。


「新武器ですか? それは面白そうですね」

「あたし、いいのを知ってる! 剣がチェーンのようになって相手を切る奴! あれ、格好良いよな」


 ちゃぶ台に手をつき、乗り出しぎみに情熱をぶつけてくる。

 意外な武器が出てきた。


「意外というと、しっくり来る感じがするわねー」


 俗に言う「蛇腹剣」

 剣の状態なら普通に斬れる。ムチのように刀身をバラバラにした状態なら、そのまま斬ってよし、相手を拘束してもよし。いろんな上状況に対応できる特殊な武器。

 自転車とかに使われているチェーンが元ネタらしい。アイディアって凄い。


「レディースだから、チェーンみたいな武器ね。悪くないわ、悪くないけど、ちょっと実現性に欠けるわね。私の技術なら作れなくはないけど、耐久力を両立するのが難しそうよね」


 いいところを突いた武器だが、実現するには少し難しいようだ。


「大吾はどう?」

「ドリルですかね。もう定番になっちゃってますけど、俺が言うしかないかなって」

「あー、昔は『ドリルは男のロマン』って元ネタを知ってる人しか分からないネタだったんだけどねー」

「今は『はいはいドリル、ドリル』ってありふれちゃってますよね。ドリル付けておけばいいって感じで」


 俺と雪絵さん意外はよく分からない話だ。アニメとか漫画にあまり興味がない人にはいまいち理解しがたい「お約束」ってやつだ。

 だから、知り合い連中にとっては、食傷しょくしょう気味である。だから、話せない。


「私はありだと思うわ。何か他のアイディアと組み合わせれば悪くないんじゃない」


 次に視線が集まったのは、雪絵さんだった。

 雪絵さんはポニーテールを弄りながら、考えていたようだが、何か決まったように目を見開いた。


「私は足の裏がロケット砲になってるやつがいいかなー。あれって意外性があって使いやすいと思うのよ」


 今度は俺以外がぽかんと、口をあけて呆けている。きっと、雪絵さんの言った武器を想像できていない様子。

 無理もない。俺もアニメで見た時、なにそれって感じでみんなと同じ顔をしていた。

 だが、今にしては相手の虚を付く戦法、両手が武器でふさがっていても使える予備的な武器、ロボットだからこそできる不安定な状態からの一撃。

 ロマン武器であることは否めないが、意外と真っ当な兵器だ。


「膝からミサイルってのも、いいですよね」

「それもいいですねー」

「いや、足の裏から出す理由がわからないから」


 やはり、俺たち以外には理解されない。天地博士は全く分からないとばかりに頭を振る。理由とか言っちゃうと、ロボットの武器の大半が駄目になりそうな気がしてならない。


「はい次は、晴香ちゃんね」


 天地博士は逃げるように話を振る。俺にずっと引っ付いていた晴香は少し頭を傾げた後に、口を開けた。


「難しく考えすぎです。シンプルでいいんです。近距離戦の格闘ですよ!」


 これまた意外な武器(?)に皆は目を張り理由を待った。


「高速戦闘は画面栄えするんですよ。巨大なロボットが四方八方に飛びまわり、激突する。ハイスピードな戦いに観客も興奮すること間違いなしです」


 晴香が格闘を選んだことに驚いているのではない。

 それは、意外性。

 普段、俺に引っ付いてまともな言葉を言わなかった晴香がまともなことを言っている。その一点に驚いているわけであって、決して悪い案ではない。

 シンプルであるが故に隙がない。相手より早く動き、攻撃を与える事は戦いにおいて基本。ただ、気になる点もある。


「でも、間接各部とかやばいよな。あたしが全て修理するの?」

「泥棒ネコはそうして人生を無駄に浪費した方がお似合いですよ。大体、この前、兄さんをたぶらかしてデートをするなんて本当に最悪です」

「な、何でそのことを……?」

「尾行していたに決まっているでしょ? まあ、あんなお子様デートなら問題なかったですけど」

「なっ!」


 晴香の棘がある言葉に愛子が飛びかかりそうだったが、肩を押さえて荒ぶる心を静めさせる。俺が動いたために晴香はより引っ付いてきており、今では上半身をがっちりホールドしている。

 何故か、愛子本人より、天地博士と雪絵さんが過剰反応して目を大きくして晴香を見やる。まるで、自分も尾行していながら、晴香の尾行に気付けなくて、そのことに戦慄しているかのようだ。この前の買い物に何が起こっていたのか、俺にはもう知る由がない。


「ま、まあ、高速戦闘は魅力的だけど、少し難しいわね。ボウエイオーの作りがそれを想定してないから、フレームを一から作り直す必要が出るわ。悪くないけど、非現実的ね」


 少し動揺していた天地博士の口から出た意外に冷静な返しに、皆が口を閉ざし、何度も瞬きしていた。その様子に心外だとばかりに頬を膨らませ、口も尖らせた。

 そんなポーズとっても、歳のせいかきつく感じる。口にしようものならここの女性全員からフルボッコにされそうだ。

 晴香はしないか。


「次ね、センセイはどう? 聞いてたんでしょ」


 うずくまっていたセンセイは一瞬びっくと体を跳ね上げた後に、文字通り耳で耳を塞いだ。

 それでも、やり過ごすのは無理と思ったのか、深いため息をしてから、言葉を口にする。


「そうだね。今のボウエイオーを省みるに、近距離では無類の強さを発揮できるだろう。ただ、距離を取られると反撃できず、一方的にやられてしまう。だから、片手で扱える程度のライフルがいいのではないだろうか。ホローチャージなら効果的にダメージを与えられるはずだ。まあ、一般論としてな」


 犬の口から発せられた渋く耳障りのいい声から出た、思った以上にまともな答えに、全員が唾を飲み込み、動きを止めた。

 この天地博士の適当な問いから始まったこの与太話にここまで真剣な、現実的な回答が出てくることに皆が引いている。心に距離ができている。


「ど、どうした? 何か悪いことを言ったかな……」

「い、いや、実にいい意見だ。これは一考しなくてはな」


 これ以上引っ張るのも哀れだと思ったのか、天地博士は耳障りのいい言葉でお茶を濁した。


「他! 他はない?」

「じゃあ、こういうのはどうです? なんちゃららシステムって感じで、凄いパワーアップするやつとか! あまりにも強くて敵に同情してしまうくらい飛びっきりなの!」


 俺が放った渾身の提案だが、思ったより反応が薄い。あまり通じなかったのだろうか。天地博士はあさってのほうを見ているし、雪絵さんなんてまたお菓子を食べ始めた。

 一般的にそんなに認知されていないだろうか。


「それっぽいのは、フルムーンフラッシュがあるから、別のでいいんじゃないかなー。それより、天地博士はどんなのがいいですかねー」


 雪絵さんが露骨に話を逸らしてきた。何か悪いことでも言ったのだろうか。


「よく聞いてくれたわ! ずっと待ってたのよ!」


 水を得た魚のように、生き生きとしてくる。

 立ち上がり、ちゃぶ台の上に足を乗せて腕を組んで見せた。この位置だと天地博士の下着が見えそうになってちょっと気まずい。

 これは、最初から聞いて欲しかったパターンだな。とりあえず、何を言うか聞いてやろう。


「自爆よ! 自爆はロマン! 自爆スイッチぽちっとな!」


 嬉々として目を輝かせる天地博士とは対照的に、俺たちは暗く沈むことしかできなかった。


「何々? どうしたの? そんなにいいかしら?」


 ここは自分が先陣を切った方がいい。俺にはその権利がある。


「天地博士、俺は自爆したくないです」

「あ……」


 考えれば3分もかからず到達できる結論に、天地博士は辿りつけていなかったようだ。

 気付いた天地博士はちゃぶ台から足をどかし、正座してしまう。


「えーと、今回は保留で」


 本当に自爆装置をつけるつもりだったのだろうか、この人は。

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