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第24話 「おにぎりの具じゃなくて!」

あらすじ

保留で

 午前8時、いつもと同じ出勤時間。

 こんな早い時間には防衛所付近に人はいない。

 天地博士、雪絵さんはもっと遅い。一応8時間勤務を貫いているので、この時間になっている。


「ふわーあ……」


 つい、あくびが出てしまった。

 両手を伸ばして、背筋を伸ばす。朝食の用意などがある為、意外と早く起きなくてはならない。俺も出勤時間を遅らせようかな。


「おはようございます」


 急にテンション低めのねっとりとした男性の声が耳元に届く。辺りには人が誰もいなかったはずだ。

 左に人の気配が突如現れたのを感じる。背中越しに顔だけ左耳を寄せていた。


「おや、驚きましたかねぇ。挨拶をさせて頂いただけなのですがねぇ」


 いきなり背後を取られたことに肝を冷やしていると、向こうから距離を取ってくれた。

 もし、この男に殺害の意思があったのなら、気付くこともなくやられていただろう。只者ではないと瞬間に理解した。

 すぐさま振り返り、相手を見やる。

 黒のつば広帽子、黒いスーツ、黒のネクタイ、黒のスラックス、黒の靴で、カッターシャツのみ白。黒ずくめ男だが、何より目を引くのは白い髪。黒い姿でよくわからないのに加えて、日本人なのか、外国人なのかすら全く分からない。

 正体不明の男と対面しているだけなのに冷や汗が出てきた。


「どうやら、混乱されているご様子。私、イワマと申しましてねぇ。これから長いお付き合いになるかも知れませんので、覚えておいてくださいねぇ」


 声のトーンが少し上がり、さっきより朗らかに聞こえる。だが、幅広の帽子に隠され目元の確認できないが、間違いなく笑っていない。常にこちらを牽制している。


「俺に何か用事が?」

「私がここに来た理由、思い当たりがあるのではないですかねぇ」


 思い当たりはある。この展開は一度体験している。だが、あの時とは緊張感が全く違う。気配だけでこちらを威嚇しており、手が震えそうなのを我慢している始末だ。

 イワマと名乗った男がここに来た理由、間違いなく借金の話だ。

 以前、職場から首にさせて借金を返済させないようにしてきた。それと同じなのだろうが、あの桃山組ももやまぐみのチンピラとは凄みが違う。


「心当たりがあるようね何よりです。説明する手間が省けますからねぇ」


 イワマの口角が上がったように見えた。

 余裕がありありと見えるのが、こちらを焦らせる。


「俺に借金返済をさせないんだろ。晴香は渡すつもりはない」

「晴香……妹さんでしたか。私の目的はそれだけではないのですが、今はそれだけ分かっているだけ聡明ですねぇ」

「聡明かもしれないが、晴香は渡せない。このまま仕事は続けさせてもらう。何があってもだ」


 晴香を手元から放したくない。それだけは絶対に守るべきラインだ。

 これからどんな事が起ころうともそれは変わらない。


「言わせていただきますが、そこまで分かっていて抵抗するなんて意味がありませんよねぇ」

「何故、そんな事が分かる? 何処まで知っている?」

「それを教えるようにクライアントから言われてませんからいいませんが、天見元国防大臣あまみもとこくぼうだいじんは後ろ盾にはならないと理解していただきたいですねぇ」


 所長が後ろ盾? 元国防大臣? よくわからないが、それが何だと言うんだ。そんな事は関係ない、俺は俺のやるべき事をするだけだ。


「所長は関係ないだろ」

「そうですか。ですが、警告はいたしましたからねぇ。後で文句言わないでください」


 一瞬、真っ赤な瞳のこちらを睨んだのが見えた。

 ヘビのひと睨みを前にしたカエルのように体が動かない。本能がこいつは危険だと警鐘を鳴らす。

 負けじと睨み返すがこちらのことをまるで意に関していない。


「文句を言うつもりはない。できれば早く視界から消えて欲しい」


 精一杯強がって何とかこの一言を言う事ができた。


「随分と嫌われましたねぇ。では、また会うこともあるでしょう。またその時はよろしくお願いしますねぇ」


 イワマは帽子を押さえたまま丁寧なお辞儀をする。

 先ほどの緊張感とはうって変わって、仕草が余裕たっぷりに感じられ、こちらの焦りを際立たせた。

 と、気付くと黒ずくめの男、イワマは姿を消していた。

 本当に一瞬、こちらが少し気を緩めた途端、どこかへ行ってしまった。

 一方的なやり取りに、自分がイラついていることを思い知らされる。

 結局、何がしたかったのか分からなかったが、こちらを逆撫でることには成功していると認めざるを得ない。


「もう二度と会うつもりはないけどな」


 それだけを呟くことで精一杯だった。




「今日は、大吾対策会議の第2回目ですよー」


 前回、第1回と同じ近所のファミレス。いつものメンバーに集まってもらいました。

 私の他はやる気がないのか、各々が持ってきたドリンクバーを勝手に飲んでおり、こちらに視線を向けていない。私も目の前にあるチョコパフェを口に運んでいる。これが美味しくて止まらない。

 と、前置きはさておき、早速本題に移りましょう。


「今日みんなに集まってもらったのは、愛子ちゃんのデートについてですねー」


 そう、先日尾行したものの、最後には見失ってしまった。このことは追求しておかないといけないかな。放っておくと風紀の乱れに繋がりそうですし。

 私の言葉に、愛子ちゃんへの視線が増えた。晴香ちゃんだけは侮蔑ぶべつの視線を送っているんじゃないかとと思うほど、顔をしかめている。


「あ、あたしですか? 別にただの買い物です。デートとか、そんなんじゃ……」


 これはデートと意識してましたね。他のみんなも白々しく動きを止めている。


「えーと、この前、メールアドレスを教えてもらったから、何かメールしたくて……それで、買い物に……」

「え! 何それ! 抜け駆けじゃない! 私もそうすればよかっ――」


 とっさに天地博士の口を塞ぐ。この人を野放しにすると、話が進まない。

 こちらにはどうしても聞きたい事があるのよ。会議を私物化していると非難されようとも、聞きたい事が……。


「デートしていたと。そして、晴香ちゃんはそれを尾行していたんですよねー?」


 前回、取り留めない戯れ言をしていた時に発覚した晴香ちゃん尾行問題。これは追求してあの後、どうなったのか詳細を聞きたい。

 それに、晴香ちゃんが尾行していた事をこちらは全く気付かなかった。一体、どのようにしていたのか。結構気になってる。

 別に風紀の問題であり、私は特に関係ない。関係ないの。


「当然じゃない。兄さんが在るところに私も在るわ。尾行するのは当然でしょ。博士と師匠は遊んでいたんですか? 尾行してい――」

「はい、そこはいいから、最後はどんなかんじだったのかなー?」

「ふーん、ファミレスを出た後はどこかの店に入ることもせずに3時間ほど歩いてましたよ。その後はフランチャイズの喫茶店に入ってジュース飲んで、そのまま解散。つまらないデートでした。私なら3度はキスしていましたけど、その先まで行けましたけど」


 無駄な虚勢はこの際、置いといて、ファミレス後の話をするとか、やっぱりこちらに気付いていたのね。滑稽で仕方なかったでしょうね。

 それにしても、3時間の徒歩って健康的というより、足痛いでしょ。デートでやることじゃないよね。あの唐変木とうへんぼくは何やってんだか。


「それで、愛子ちゃんは楽しかった?」

「ふがふがふが……」


 天地博士の口を塞いでいたことを忘れていた。流石にもう変なことはいわないでしょ。


「ちょっと! 何楽しそうにデートしてたのよ! 雪絵ちゃんの暴走がなかったら私も――」

「はい、ストップ」


 天地博士の口を解放したらこのざま。やっぱり口を塞いでおきましょう。

 愛子ちゃんに視線を向けると、自分の番だと理解したのか、少し頷いたわね。少し目を泳がせてどう答えようか考えれているみたい。可愛いわね。


「うん。とても楽しかった。特に3時間歩いたのは良かったかな」


 そこは大きなマイナスポイントだと思ったけど、本人が楽しいならそれでいいか。

 もう聞きたいことは聞いたし、この後、どうしようか。


「その中で大吾の好きなものとか聞かなかった?」


 それとなく調査をしてみてる。

 別に大吾ちゃんの事を気にしてるわけじゃないのよ。ただ、一般論としてね。


「んー? 何で唐突に兄さんの好物とか聞くの?」


 晴香ちゃんは察しが良すぎてたまに怖いわね。でも、この程度の質問なら、そっちも知りたいはず。ここは経過を見守ろう。


「うん、私も知りたいわ!」


 よし、同調圧力成功。これは愛子ちゃんは答えざるを得ないでしょ。


「そ、そうだ、確かに聞いたけど、シーチキンマヨだった気が――」

「おにぎりの具じゃなくて!」


 この子、結構天然なのよね。忘れてたわ。

 今もサッカーボールに「Kick me」とかプリントされたTシャツ着てるし、一歩間違えばお腹をけらるんじゃないかしら。


「具じゃなければ……手作りが好きって言ってたかな」(おにぎりの話)

「「手作り……」」


 晴香ちゃんと言葉が重なる。向こうも知りたかったようね。

 そうか、大吾ちゃんは手作りがすきなのね……。

 いや、私はそういうのじゃなくて、参考としてだから。あくまで風紀を守るためだから。


「ぷはぁ! それなら、私が一番ね! ほら、ボウエイオーとか、私の手作りと言って過言じゃないわ!」


 私の拘束を解いて白衣までひるがえしてどや顔で椅子の上に立っていた。店の人に迷惑だから、そこに立つのは止めて欲しいかな。

 その様子になんだか、無性に腹が立ってきた。天地博士の無駄にポジティブなところが特に。


「じゃー、第二回 大吾対策会議は終わりまーす」

「異議なーし」


 私と晴香ちゃんはこの会議を終わらせた。

 晴香ちゃんと初めて心を一つにできた気がして少し背筋が凍る思いがした。


「あれ? もう終わり? 私の勝ちよね! これは、私の圧勝よね!」


 私たち3人は無言で、それぞれ席を去った。

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