↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
22/58

第21話 「人生の中でそう思える人と出会えたってことは、幸せなことさ」

あらすじ

メールが忙しい生活

 ベッドに横たわり、スマホを眺める。特に何が変わったとか、故障したとかそういうことではない。ついに手に入れてしまった。

 あいつのメールアドレス。

 スマホをギュッと抱きしめる。2年近く一緒にいたというのに、こういう連絡手段を持っていなかった。

 というか、あいつ、ずっと携帯持ってなかったんだよな。

 まあ、集会に参加すれば大抵そこにいたから、特に困ったことはなかったけど。

 だけど、こうしていつでも連絡が出来るというのは、まあ、嬉しい、かな。

 うーん、何をメールしたらいいんだろうか。

 それを考えるだけでも、楽しい。

 つい、ベッドの上を転げまわってしまった。

 正気になったあたしは乱れた金の髪を整える。髪を伸ばしているから、こんなことをすると傷がついてしまう。

 あいつと出会って、こんな風になるなんて、思わなかったな。

 目を瞑ると昔のことを思い出す。




 あたしは荒れていた。

 学生時代に誰もが通るであろう、思春期の病気。反抗期の一歩先、反社会的思想。


「親が悪い、社会が悪い、悪いのは自分じゃない」


 いい訳じみたことを並べてみたが、結局のところは不良になった。

 その一言に限る。

 本当は知っている。親が悪いのでも、社会が悪いのでもない。それでも、自分が悪いのを認められない。

 元々は友人に誘われて入ったチーム。

 初めからそんな思想を持っていたわけではない。誘われる前は何処にでもいるただの平凡な学生。特に反社会的というわけではなかった。

 実を言うと、チームにずっといたのは楽しかったから。仲間と一緒にいるとが楽しかった。ただ、それだけ。


チーム「頼威迅愚ライジング


 レディース。所謂いわゆる、女暴走族。

 このチームはそこまでガチではなく、一緒にバイクを走らせ、集会では馬鹿な話をして、喧嘩を吹っかけられたら相手をする。入る者は拒まず、去る者も拒まない。遊びの延長線のようなチーム。

 そんなチームだからこそ、あたしのような半端な者も受け入れられた。

 暴走族の真似事。髪を金色に染めて、仲間との一体感を喜び、バイクを改造して暴走するのを楽しんだ。ただの遊び。

 それでも、バイクに関してはマジだった。

 乗ることは得意じゃなかったけど、弄くるのは楽しかった。

 他の仲間ができないことをやると、ちやほやされた。だけど、専門的な知識が必要で、いろんな雑誌を読みふけり、専門書を買ってまで読んだこともある。昔はそこそこ勤勉家だった事がこんなところで役に立つとは思わなかった。


 そんな仲良しグループに1人の男がやってきた。

 チームのメンバーの彼氏の友人だそうで、グループとはまるで縁のない男。しかも、いつも飄々としており、不真面目で、がさつ。本当にいいとこのない奴で、正直、顔も見たくない。

 その割りにチームにやたらやってくる。彼氏を連れてきた彼女は恋仲となりチームを抜けたというのに、この男は平然とチームに居座っている。

 あたしはその男を徹底的に無視していた。


 そんなある日、改造車の色を塗りなおしていた時のだ。

 紫色のスプレーをかけているとくだんの男が近づいてくる。当然、無視した。


「おう、ちょっと俺に任せてみろよ」


 あたしからスプレー缶を取り上げると、雑に色を塗り始めた。


「うわ、なんだこれ、難しい」


 馬鹿なんじゃなかろうか。スプレーのかけすぎで液だれし始めた。本当に使えない奴。

 男からスプレー缶を奪い取り、すぐに止めさせた。


「これはこうやるんだよ」


 自分でも見事に思えるほど、液だれを隠すことができた。対照的にまるで駄目だった馬鹿にしたり顔を見てやった。優越感がすごく、つい笑ってしまう。


「お、ようやく笑ってくれたな」


 不意な言葉に、しまったと、口元を押さえる。この男、わざとこんな事をしたのだと、すぐに理解した。

 あたしと交流するために、下手を打っていい気にさせる。その隙に取り入って騙したように笑顔を引き出したのだ。

 なんて卑劣、極悪、最低。男の評価は底辺だと思っていたけど、さらに下へと転がり落ちた。

 そんな奴だったが、会話が増えた。

 男が馬鹿な事をするたびに、あたしは悪態をついた。

 無視しているより、気になり始めた。よく、好きの反対は嫌いでなく、無反応だと呼ばれるように、あたしは彼を嫌いになってしまったのだ。

 いつも、彼の行動を見張り、馬鹿をやったらすぐになじってやった。それが、楽しくなり始めた。漫画やアニメでありそうなシチュエーションそのものだ。

 まだ、この頃はただの駄馬な男という認識しかなかった。


 ある日、あたしは危機にさらされた。

 友人と一緒に遊んでいた時のこと、対立していたチームのメンバーと鉢合わせてしまった。

 こちらは2人、相手は4人。

 喧嘩をしたら、負けることは明白。逃げ出したところまではよかったが、隠れられるよう裏路地に逃げ込んだのは判断ミスだった。袋小路に追い詰められる結果となり逃げ場はない。詰みだ。


「喧嘩だ! 喧嘩をやってるぞ!」


 男の声が聞こえた。

 こちらにとっては天の声。この状況では喧嘩を続けることなどできないだろう。発見した男性の声を聞きいた人が警察へ通報をしたりするだろう。

 救われたと思い、その男を見ると、あの馬鹿だった。


「喧嘩だ! 喧嘩をやってんぞっ!」


 飛び込んできた馬鹿は相手チームの1人に飛び蹴りをかました。蹴られた相手は見事なまでに吹っ飛んでいった。男性が女性を不意打ち気味に、全力で蹴ったのだ。

 女性だろうと関係ないその行為に相手は確実に怯んだ。まさか当然現れた男性に蹴られるなんて夢にも思わないだろう。あまりの卑怯さ、無軌道さにだれもが唖然とした。

 相手が驚き戸惑っているのを見ると、あの馬鹿がこちらをチラチラと視線を寄越す。つまり、察して逃げろということらしい。当然のごとく、あたしは友人の手を取り、あの馬鹿が入ってきた道を抜けて逃げきった。

 あの馬鹿は大丈夫だったのかと、心配しながらチームに戻ってくると、平然とした顔で居やがった。

 きっと、その時からだろう。彼を異性と思い始めたのは……。



「あんた、さっさと告白しちゃいなよ」


 突然、そんな事をリーダーから言われた。それは当然、彼に対してだろう。

 あたしはそんなんじゃない。ただ、一緒につるんでいただけだ。それだけだ。


「お前は隠しているつもりだろうが、みんなお前が惚れてることを知ってんだ」


 最近、メンバーがよそよそしいとは思っていたが、そういうことだったみたいだ。確かに、告白というワードで彼を一番に思い出すくらいなのだから、仲間も察しはついていたという事だ。


「あたしはそんなんじゃない」

「まあ、それならいいけどね。でも、人生の中でそう思える人と出会えたってことは、幸せなことさ」


 これ以上、突っ張る必要もないのかも知れない。あたしはリーダーの言葉で決心した。

 きっと、彼はいつも通り、飄々として、不真面目で、馬鹿なんだろうが、言葉にしてみようかと思ってしまった。




 まぶたを上げると、天井が見えた。昔のことなんて、今は関係ないじゃないか。

 はぁ……。

 何をメールしようか。

 ベッドに俯きになってスマホで文章を書き始めた。

『今度の休みにデートしよっか』

 駄目だ。まず。誘う感じを強調しないと、あいつ鈍感だから。もっと攻めてみよう。

『今度の休みにデートするぞ』

 もっと変な文章になった。そもそも、デートとか書くの辛くない?

 そこらへんはソフトに、ぼかしてみよう。

『今度の休みに買い物に行くぞ』

 これ、ただの宣言だ。買い物に行くぞと決意表明しただけだ。

 もう一言添えてみよう。

『今度の休みに買い物に行きたいが、どうだろうか、一緒に行ってくれはしないか』

 悪くない。悪くないが、へりくだり過ぎではないか? しかも、あたしらしくない。

 もっと短く、直球に。私らしさも忘れずに。

『今度の休みに買い物に行くんだ。あんたも付き合えよ』

 これくらいかな。あまり露骨ではないし、対等という感じもする。

 何より、あたしらしいじゃないか。

 後は、送信ボタンを押すだけ。

 スマホを両手で握りながら、親指だけ画面に近づける。

 本当にこれでいいのかと、ふと思いとどまる。だが、そんな受身ばかりでは、あいつに届かない。当たって砕けろ。いや、砕けては駄目なんだが。


ピッ


 押してしまった。

 もう後戻りはできない。


…………


…………


 そ、そんな早く返事が来るなんて、ありえないよな。

 それでも、スマホの画面から目を離せない。


…………


ティーン!


 メールが来た。

 間違いなくあいつからの返信。慎重に内容を確認してみる。


『いいぜ、付き合ってやる』


 素っ気無いな。それが、あいつらしい。

 こんなメールのやり取りとか、本当の恋人みたいじゃないか。って何を考えている。私は恋人だぞ。

 自然と顔がだらしなくなっていくのがわかる。顔を枕にうずめて足をバタバタと動かす。嬉しさと恥ずかしさが同居していた。

 纏まらない頭で、どんなデートにするのか決めなくてはならない。

 こんなやり取りが本当に楽しくて、幸せだと知った。

 もう一度スマホに向かって次はどんな返事をしようか考え始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。