自己紹介、その1
「では、早速なんですが、皆さんも簡単に自己紹介をお願いします。
えー、順番は廊下側の列から順に中庭側に向ってお願いします。それでは、有栖さんから。」
一番最初か。なんでこのクラスは阿部とか新井とか浅野とかいないんだ?
俺の後有馬だし。珍しい苗字の奴らかき集めたみたくなってるし。
まぁその辺は考えるだけ無駄か。
俺は無言で席を立ち、自己紹介を始める。
「有栖涼花です…っ!?」俺は名前を言いながらクラス全体を見回した。
思わず変な声が出てしまった。まさか。こんなことがあっていいのだろうか。
中庭側の一番後ろの席に、あの子が座っていた。
俺の自己紹介が終わって数秒後。「えっ。」っと、俺を除いたクラス全体がそう呟いた。そう、俺が彼女に吃驚して出た声ではない。
クラスが俺に吃驚して出た声だ。
「有栖さんって…男なの?」担任の氷川先生がそう問う。
「そうそう、俺は男。昔から姉貴たちに女ものの服を着せられてたせいで、男ものの服は持ってない。
さらに言うと俺はこの格好…女ものの服を着ていないといけない事情がある。校長も承認済みだ。だからと言って俺は男には興味ない。今俺が興味あるのは…」
ハッ!!っとここで我に返った俺は顔を赤くして勢いよく席に座る。
俺が席に着いた直後、クラス全体から「乙女だ…」という声が上がった。
俺は勢いでなんてこと言おうとしてんだ! 『俺は彼女しか興味がない。』とかいきなり言ったら引かれるどころか転校しちゃうかもしれないじゃないか!
いくら自分が可愛くともその辺は警戒しなくては…。
そう、俺は今スカートを穿いている。女ものの制服を着ている。
だがこれには深い事情があった。
あれは中学の頃。
俺は交通事故に遭った。
その時のお見舞いに、事故を起こした加害者の知り合いが来た。お見舞いに来てくれたは良いんだが、相手がテレビ業界の人で、色々話してるうちに何故か俺をデビューさせたいという話になっていた。まったく訳が分からなかった。そこにタイミング良く美鈴がお見舞いに来て、加害者の知り合いが「涼花君を俳優としてデビューさせたい」という話を美鈴にした。
美鈴はもちろん断った。俺で着せ替え遊びできなくなるから。
その代わりに、その業界に興味があった美鈴が代わりに女優をやることになった。だが諦めきれなかったのか、「涼花君が男に戻ったらここに。」とプライベートの電話番号をもらった。
そもそも俺はずっと男だが。
それから美鈴は、「いつあいつに見られてるか分からないんだからあんたはこのままずっと女装をしていきなさい!」と俺に言いつけた。
物心つく前から女装させられていた俺は別に何の抵抗もなかった。
寧ろ女装してないと落ち着かないまでになっていたので、俺はすんなりその言いつけを受け入れた。
要約すると、女装している原因の二割は俳優にさせられる事を避けるため、残りの八割は女装してないと落ち着かない、ということだ。
だが流石にこれを公言するのは恥ずかしいので、深い事情がある、ということにした。
そもそもテレビに出てる人は基本的に苦手だ。
裏表で顔が全く違うからだ。
恵梨がたまに連れてくる女優さん達なんか特に。
テレビでは清楚なイメージしかない人が実は暴言厨だったり。とにかく愚痴がうるさい。
そんな業界には関わりたくないのだ。
だがその事情を公言するわけにもいかないので、さっきは少し濁して発言した。
クラスの皆はまだ吃驚しているが、段々と落ち着いてきた。
俺の自己紹介を終えた後、少し時間は空いたが自己紹介が再開された。
次はあの人の自己紹介。




