存在
彼は何の為に生き
何の為に死んでいったのだろう
修羅だ、と
誰かが言ったような気がする。だがそれももう、どうでも良い。
灰色がかった髪も赤にかわりつつある。
敢えて白を選んで着た着物も赤に染まっている。後ろは振り返っていないが多分屍累々、と積みあがっているだろう。
倭の兵隊どもが引っ切り無しに惟神へと向かってくる。
もう何十人殺したろうか。
人間の急所という急所をすべて頭に叩き込んだ惟神には、それらは「うざい」だけの存在だった。
そいつ等に恋人がいようと子供がいようと家族があろうと、関係ない。
乾いた血が肌に食い込む。それももう関係ない
人間だったものが上げる不快極まりない悪臭も関係ない。
死ぬ寸前に上げる煩い悲鳴も関係ない。
ここまできてようやく分かった。
ああ、今は独りだと。
すべてを拒絶していると。
背徳とはこういうことだったのだと。
倭の神殿が見えてきた。両親が死んだ場所。
家族が死んだ場所。
だから――ここが己の死に場所。
この外見だけの美しさのある神殿を眺め口を開く。
あな、悲し。
あな、憎し。
神など、いるのならば
この手で殺してくれよう。
神に罰を与えてやろう。
この世は神のものでもなければ
悪魔のものでもない。
この世は
人間のものだ。
それを分からぬ倭姫。
なんと愚かしいことか。さすれば俺が分からせてやろうか。
神ほど傲慢で狡猾で愚かしいものなど、存在しないということを。
明け方の朝日に照らされ奇妙な色になる髪。
神殿に寄せ付けぬように広がる湖をひとまわり眺めると
惟神の足は警備が一段と堅い、と一般的に言われている神殿内へと続く橋へと向けた。
立ち止まらずに考える。倭を殺せばこの国は滅びるかもしれない。
しかし滅び、新たに生まれる国こそが「真の世界」であれば良いということ。
神に頼らず、自分自身の手で、世界を創れ。
ただそれだけが今の願い。
ふと、思い出す。
あのしたたかで酒のみのあの男の言葉を。
『この世界はうつくしい』
『だがうつくしいからこそ滅びる』
『人々が憎しみ合い、競争し合い、時に少々のうつくしさをみせる。 それこそ真にあるべき人の姿』
思えばあの男だけが露に「憎しみ」を見せていた唯一の男だった。
あの人間は「倭姫様が」そう仰るのだからそうなのだろうと、憎しみも競争というものも全て飲み込んで納得している者ばかりだ。
まるで「意思」がない「人形」のようで――。
彼はそれを哀れんで、憎んで、許せなくて…そう葛藤していたのだろうか。
「彼」という存在は自らこの社会に反する悪となって、其れを皆に伝えたかったのではないのだろうか。
だが其れを彼は嘆いてはいなかった。
寧ろ誇りに思っているようだったのも事実。
「おまえさんという存在は無駄ではなかったと。私は信じているよ」
芸者屋の2階から見える朝日を眺めながら。
彼が好きな銘酒を朝日が反射するあの湖に、掲げる。
其の時、丁度咲き頃だった常盤万作の花が揺れた。




