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惟神-mors-  作者: イヲ
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対峙

「愚かな男だ。全てを受けいれ生きてゆけば良かったものを」



 『一般的に』警備が堅いと言われる門の人間も全て破壊し漆塗りの 柱にもたれかかる。

 無傷という訳ではない。

 こちらは素手で、向こうは武装しているのだから。身体のあちこちから血が吹き出ている。

 片目も既に死んでいて良く見えない。だがそれでも良い。

 どうせ死を覚悟してきたこの身。生きて帰ろうなどとは思ってはいない。


 失血で軽い眩暈をおこして朱色の床に膝をつく。


「――……」


 不自然にも口の端はつり上がり『何時もの』皮肉めいた笑みをもらす。


「……糞が……」


 血で固められた指先に力を込めて拳をぎゅう、と握った。もう恐怖などと言うものは捨てた。

 今は憎しみと復讐心で塗りたくられた只の器だ。

 身体中が真っ黒で我を忘れそうで。

 自我を捨て、本能のままに行動出来ればどんなに楽だろう。しかしそれでは倭の思う壺で。

 まるで水浴びでもした様に髪から滴り落ちる血を乱暴に振るった。

 目を瞑るとつい昨日のことのように思い、おこされる記憶。


 両親の、家族の叫ぶ声。

 初めて見た母の涙。


 床についていた膝をゆっくりと起きあがらせる。



 其の時。

 する、する、と。衣擦れのあの音が聞こえた。

 其の音に、残った片方の眼には憎しみに染まった赫い色が燻る。


「よう来た」


 口の端を吊り上げ愉快そうに笑っている。いまだ衰えぬ其の姿。

 約十年前と変わらぬ少女のままの其の姿が目の前に居る。


「待っておったぞ」


 憎しみで身体がうまく動かない。気分が悪い。

 静まり返った朱色の廊下で低い倭の笑い声が響いた。


「昔と変わらぬなぁ。御前も。其の憎々しい眼。憎々しい其の存在」


優雅に、しかし憎しみを込めた声で。


「安心しな。……俺はもう死ぬ」


 血で赤く染まったこの身。もう、町へ戻る気はない。


「……御前と一緒に地獄へいってやるさ」






 良く見えなかったが。

 一瞬、倭の顔に蔭りが見えた。

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