既視感あるけどコピペではありません
温泉迎賓館が誇る極上の源泉掛け流しと、新たに導入された本格的な「フィンランドサウナ」の熱気は、王国中枢から訪れた要人たちの心身の疲れを完全に溶かし去っていた。
極上の汗を流し、身も心もとろけるほどリフレッシュされた来賓たちがそれぞれの部屋でくつろぐ夜。
迎賓館内にある、あの特設カウンター――イチカが「極上夜食カウンター」と名づけた、味集中ブースの小窓の向こうで、またしても深夜の仕込みに火が灯っていた。
そこにやってきたのは、アルスター公爵らと共にムーツ領を訪れていたハギムーン侯爵その人だった。
サウナ上がりの火照った身体と心地よい気怠さを抱えた伯爵は、案内されるがままに個室のカウンター席に腰を下ろす。
やがて、厨房側からチリリと小窓がスライドし、毒見を経て「シュッ」と差し出されたのは、湯気を上げる魅惑の一杯――「夜鳴きそば」であった。
「ほう……これが噂の、深夜の背徳の麺料理か」
半信半疑の様子で箸を取り、スープを一口啜った瞬間。
ハギムーン侯爵の瞳が、これ以上ないほどに大きく見開かれた。
「なんだこの美味さは……っ! 魚醤やみりん、出汁を煮詰めた深みのある返しに、コシのある自家製麺、そしてサウナ上がりの体に染み入る圧倒的な旨味……!」
侯爵の食欲のスイッチが、先日のブルーフォレスト伯爵を彷彿とさせる凄まじい勢いでオンになった。
「すまない、もう一杯!」
「替玉、追加頼む!」
「もう一杯だ!」
個室の小窓から、驚異的なハイペースで次々と替え玉が要求される。厨房のスタッフたちは、昨日の光景がデジャブのように繰り返されるのを目の当たりにしつつも、嬉しい悲鳴を上げながら必死に麺を茹で続けた。
結果、ハギムーン侯爵もまた、深夜の個室で限界を超えるほどの替え玉を平らげ、すっかり骨抜きにされてしまったのだった。
そして――翌朝。
昨夜の衝撃と幸福感が忘れられないハギムーン侯爵は、開店直後といわばかりの勢いで、まっすぐにイチカのもとへとやってきた。
真剣な眼差しを向けた侯爵は、先日のブルーフォレスト伯爵と全く同じ台詞を口にする。
「イチカ嬢! お願いだ、あの『夜鳴きそば』の製法とレシピを我がハギムーン侯爵領にも持ち帰らせてほしい! 破格の買い取り金でも、独占販売の契約でも、望む条件を提示してくれ!」
あまりのデジャブ感あふれる展開に、イチカはふっと柔らかく微笑み、昨日の自分を再現するかのように首を横に振った。
「いいえ、お金をいただく必要なんてありませんよ。だって、このラーメンという最高の一杯は、誰かを競わせるためのものじゃなくて、みんなに笑顔になってもらうためのものですから!」
「なっ……これを無償で譲るというのか!?」
「はい! 美味しいものは世界中に広めてこそですし、ハギムーン侯爵領でもたくさんの人を幸せにしてあげてください。自家製麺のかんすいの取り方から出汁の取り方まで、レシピはいつでもすべて自由にお渡しします!」
その清々しいまでのオープン精神に、ハギムーン侯爵は昨日と同じようにしばらく言葉を失い、やがて深く感服したように頷いた。
その後、苺香はふと、激しく首を傾げた。
(……あれ? この流れ、前も全く同じような絵面でやった気がするぞ……? デジャブっていうか、完全にコントの再放送を見ているような、この既視感は一体……?)
北の寒村ムーツ領の夜食カウンターから始まった「ラーメン布教の儀式」は、まるでコピー&ペーストされたかのように、今日も今日とて完璧に繰り返されていくのだった。




