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異世界のむつ市(最北端)へようこそ!  作者: 一条ひかり


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王都の夜会と北へ向かう蜜月

王都の一等地にそびえ立つ王弟殿下の宮殿。その大広間では、今宵、最高級のシャンデリアの光の下で華やかな夜会が開催されていた。


主催は、王弟殿下の夫人であるビクトリア。


しかし、今回の夜会の真の目的は、これまで一定の距離を保ってきた「アルスター公爵家」と「ハギムーン侯爵家」が公式に手を結んだことを、王都の貴族社会へ盛大に見せつけることにある。


広間に集まった高官や貴族たちの視線は、ある一組の女性たちに釘付けになっていた。


アルスター公爵夫人エオノーラと、ハギムーン侯爵家のシュクレ夫人――。


これまで派閥の垣根もあり、決して不仲ではないものの、ベッタリとつるむような関係ではなかった両家の中枢の夫人が、今宵は腕を組み、親しげに微笑み合いながら会場を練り歩いているのだ。


「あら、シュクレ夫人。この間お話しした北方の特産品、気に入っていただけて嬉しいわ」


「ええ、エオノーラ様。あそこの領地が作り出す品々には、いつも驚かされますわね」


二人が声を揃えて優雅に微笑むだけで、周囲の貴族たちは「まさか、アルスターとハギムーンが本格的に共同歩調を取る気か……?」と、水面下でざわめきを隠せない。


しかし、今回の夜会の目玉は政治的なアピールだけではなかった。


会場のあちこちに設けられたビュッフェやデザートワゴンには、貴族たちの目を眩ませる極上の品々が並んでいた。


中でも圧倒的な人気を集めていたのは、今や王都のハイソサエティで飛ぶ鳥を落す勢いのブランドとなった「ルナ・ソレイユ」がカフェを出す噂は既に広まっている。


そのカフェで提供される予定のスイーツが他に先駆けて食べることができるのだ。


それに加えて普段入手困難である「ルナ・ソレイユ」の美容品が手に入るとあって出席した夫人達の目の色がかわっていた。


美味しい料理とデザートに加え、めったにお目にかかれない高級美容品まで手に入る特典満載の夜会は、瞬く間に貴族たちの絶賛の的となった。


誰もがこの華やかな同盟の祝宴に酔いしれ、歓談の花を咲かせている。


そんな熱気の中、少し静かなテラスの近くで、エオノーラとシュクレ夫人はグラスを傾けていた。


「ふふ、周りの者たちの目の色が変わりましたわね。これで私たちの共同歩調についての噂は、明日には王都中に広まるでしょう」


エオノーラが艶やかに微笑むと、シュクレ夫人は上品に口元を扇子で隠しながら頷いた。


「ええ。ですが、形を作ったからには、実を伴わせなければなりませんわね。……エオノーラ様」


「ええ、本題はそこよ」


エオノーラは真剣な眼差しを向け、低いトーンで切り出した。


「ムーツ領の温泉迎賓館で、いよいよノースシーロード王国との重要な会談が行われるわ。あの場所の警備体制、そして北方の要衝としての最終確認を――ぜひ、ハギムーン侯爵家のお力でしっかりと見届けていただきたいの」


アルスター家だけでなく、ハギムーン家の公認の目を入れることで、このプロジェクトの裏表のない強固さを内外に誇示する狙いだった。


シュクレ夫人はそれを聞くと、ふっと柔らかく笑みをこぼした。


「ふふ、他人行儀ですわね、エオノーラ様。そんな大事な最終チェック、我がハギムーン家だけに任せるわけにはいきませんわ」


「あら?」


「――でしたら、私も一緒にムーツ領へ同行いたしましょう。実際あの温泉とやらに入り、自分の目で警備と迎賓の体制を確認してこそ、我が家としても胸を張って『共同バックアップ』と言えますからね」


エオノーラは満足げに笑みを深くした。


「……頼もしいことですわ。では、決まりですわね。両家揃って、北の果ての『天国』と噂される迎賓館へ乗り込みましょうか」


王都の華やかな夜会の裏で、アルスター公爵家とハギムーン侯爵家は完全に一体となり、その矛先を北方のムーツ領へと向け始めたのだった。

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