↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界のむつ市(最北端)へようこそ!  作者: 一条ひかり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
85/138

未知なる秘境と懐かしの実家

王都での2大イベントを終え、イチカたちの馬車はついに北のムーツ領へ向けて出発――ではなく、その途中に位置するとある特殊な地域へと進路をとっていた。


今回の帰路の途中、苺香はあえて少し遠回りをする計画を立てていた。


この世界は、前世で生きていた現代の世界にどこか似ている。


そうであれば、ムーツ領へと至る街道の途中にある、あの土地に立ち寄らないわけにはいかない。


「グンマー……。一体どんなすごい秘境なのかしら。やっぱり入国するのに通行手形とか必要なのかしら……?」


飛んだ秘境のあるあの物語を想像しながら、苺香はついにその土地の境界へと足を踏み入れたのだった。


――だが。


実際に馬車を進めてみると、目の前に広がっていたのは普通の豊かな田畑や、のどかな山々の景色。


もちろん通行手形を要求されるような検問所なんてものもなく、拍子抜けするほど平和で整備された街道が続いている。


「なんだ、ムーツの方がよっぽど秘境じゃない……」


苺香は窓から首を引っ込めると、呆れたような、そして盛大なツッコミを入れたくなった顔で呟いた。


思わず零れた苺香の感想に、隣で手綱を握っていたルーカスが


「まあ、あそこは基準がおかしいからな」と苦笑いを浮かべるのだった。


その後、馬車に揺られ、前世の記憶を頼りに「実家のイチゴ農園があったはずの場所」へと近づくにつれて、苺香の胸は妙な高鳴りと懐かしさでいっぱいになっていた。


――そう、あの甘酸っぱい赤い宝石たちが並ぶあの風景。


「ふふっ、久しぶりだなあ。子供の頃、こっそり摘み食いして怒られたっけ……。

この世界のグンマーにも、ちゃんと私の実家のイチゴ畑はあるのかしら」


期待を膨らませながら、馬車から降り立った私の目に飛び込んできたのは――。


どこを見渡しても、見事なまでに青々とそびえ立つ、大量の「長ネギ」だった。


しかも、ただのネギではない。ずっしりと太く、いかにも育ちが良さそうな高級ブランドネギの群れが、風に揺られてザワザワと音を立てている。


「……え?」


私は自分の目を疑った。イチゴの甘い香りなど微塵もせず、鼻腔を突くのは力強いネギの匂いだ。


記憶の断片を慌ててひっくり返すが、どう見てもそこにあるのはイチゴではなく一面のネギ畑だった。


「いや、ちょっと待ってよ! 私の実家、イチゴ農園じゃなくてネギ農家だったの!?」


あまりのシュールな現実に、私は思わず頭を抱えてその場で崩れ落ちた。


隣でその光景を見ていたルーカスは、呆れたような、しかしどこか楽しそうな笑みを浮かべながら肩をすくめた。


「……どうやら、甘い果実の夢は脆くも散ったようだな、イチカ。だが、これだけ立派なネギが育つ土地なら、鍋には困らなさそうだが?」


「そういう問題じゃないわよ!」


ツッコミを入れる苺香の声が、グンマーの青空にむなしく響き渡るのだった――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。