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異世界のむつ市(最北端)へようこそ!  作者: 一条ひかり


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王都へ! シャンプーと北方警備隊の旅立ち

北方のムーツ領にも短い春が過ぎ去り、爽やかな初夏の風が吹き抜ける六月がやってきた。


雪に閉ざされていた険しい山道や交易路がようやく完全に開き、王都へと通じるルートが安全に通行できるようになった季節


――それは、私たちがずっと待ち望んでいた「大きな転機」の訪れを意味していた。


男爵邸の執務室。私は机の上にずらりと並べた木箱と分厚い旅行鞄を前に、今回の王都行きの目的を整理していた。


「一番の目的はね、カトリーナのところへ『夏秋イチゴジャム』と『シャンプー』、『リンス』、そして『モイスト石鹸』のセットを直接届けること。王都の貴族の女性たちにこれを売り出したら、間違いなく美容革命が起きるわ!」


前世の知識を総動員し作り上げた自信作。これを王都の敏腕商人・カトリーナに預け、本格的な販路拡大の足がかりにするのだ。


「それに、もう一つの大きな理由があるでしょ?」


私がチラリと視線を向けると、ルーカスはわずかに気まずそうに目を逸らした。そう、もう一つの目的――それは、ルーカス自身に関わる重大な件だった。


先日、我がムーツ領を視察に訪れた王弟ジークフリート殿下。


その際、彼は我が家の極上のおもてなしにすっかり心を奪われ、ノースシーロード王国との温泉迎賓館での会談に向けた警備強化として、元王都騎士団副団長であるルーカスに「北方警備隊」の隊長を務めるよう直接打診したのだ。


「王弟殿下に直接見込まれての北方警備隊のお誘いなんて、ムーツ領の今後にとっても無視できない話だもの。ルーカスが王都に行って正式な挨拶をしたり、今後の準備を整えたりするなら、私も一緒に同行するのが一番でしょ?」


私の言葉に、ルーカスは深い溜息をつきつつも、観念したように苦笑いを浮かべた。


「……まったく、お前というやつは。あのときの王弟殿下との一件をサラッと混ぜ込むなよ。だがまあ、確かに王都へ赴き、王弟殿下や関係者各位に直接挨拶と部隊の編成を済ませておく必要はあるな」


すでに王都へと戻っているエオノーラ夫人とは王都で合流することになるが、今ここにいるメンバーの旅立ちの準備は着々と進んでいる。


隣では、料理長のレイブンが「王都の珍しい食材や調味料の仕入れも、ぜひついでにお願いしたいところです」と腕を組んでいた。


その足元で、我が家の愛すべき子グマのルナが、旅行鞄の上にポンと前足を乗せ、「きゅーっ!」とひときわ大きな声を張り上げていた。


私も行く! とばかりに尻尾をパタパタと振り、全身で王都行きをアピールしている。


しかし、長旅の危険や王都での動きを考えると、野生の(しかも食いしん坊な)子グマをそのまま連れて行くわけにはいかない。


「ごめんね、ルナ。今回はお留守番よ。美味しいお土産をたくさん買ってきてあげるからね」


私がそう告げると、ルナはピタリと動きを止め、ショボーンと耳を垂らした。


そして、トボトボとうなだれながらその場にペタリと伏せをし、大きな黒い瞳に涙を浮かべて「きゅー……」と切なげに鳴く。


あまりの分かりやすいがっかりぶりに、私は思わず頭をナデナデして宥める羽目になった。


「よし、決まりだね! ルーカスの王都での挨拶の準備も、私のカトリーナへの納品も、一気に進めちゃうよ!」


こうして、初夏の青空の下、夏秋イチゴジャムとシャンプーとリンスとモイスト石鹸を詰め込んだ木箱を馬車に積み込み、私たちは留守番のルナに見送られながら(名残惜しそうに振り返りつつ)、王都へと向けて華やかに出発することになったのだった――!

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