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異世界のむつ市(最北端)へようこそ!  作者: 一条ひかり


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明かされる過去と新たな防衛網

戦略会議が一段落したところで、王弟ジークフリートは少し難しい顔つきになり、腕を組んでイチカに向き直った。


「イチカ嬢、実は君たちに相談というか……打診したい案件があるのだ。今、我が国は北方の島国『ノースシーロード王国』との間で、極秘裏に国家会談を行うことを検討していてね」


北方の国家との外交交渉。その重大な響きに、応接室の空気がわずかに引き締まる。


「そこでだ。その会談場所をこのムーツ領の迎賓館で行うのはどうかと考えているのだが……どうだろうか?」


ジークフリートの爆弾発言に、イチカは即座に、しかしハッキリと首を横に振った。


「王弟殿下、恐れながらお断りさせていただきます。いくら当領の迎賓館が贅沢な造りであっても、他国の国賓クラスを迎え入れて万が一の事態が起きた場合、我がようなる小さな男爵領の警備体制では到底守りきれません。防衛上のリスクが大きすぎます」


冷静かつ妥当なイチカの拒否に、ジークフリートは「だろうな」と苦笑しつつ、ふと視線を部屋の隅へと向けた。


そこに控えていたのは、いつ何時も主であるイチカの側を離れない、無口で屈強な男――ルーカスだった。


ジークフリートは意味ありげな笑みを浮かべ、ルーカスに向かって声を張り上げる。


「いつまで壁の花のつもりで無言で突っ立っているつもりだ、ルーカス。そろそろその重い口を開えたらどうだ?」


「……。私はただの、イチカ様をお守りする護衛ですので」


ルーカスは淡々と、しかしどこか底知れない威圧感を漂わせながら短く答えた。


ジークフリートはその態度に構わず、フッと息を吐く。


――王都の人間であれば誰もが知る名。ルーカスはかつて、王都騎士団の副団長を務めたほどの男だった。


だが、王国中央での権力闘争や裏切りに巻き込まれ、すべてを奪われる形で王都を追放された過去を持っている。


「ただの護衛か……。王都騎士団の副団長を張っていた男が、地方の男爵領で令嬢の身辺警護とは、相変わらず隠遁生活がお好きなようだな」


ジークフリートの言葉に、同席していたルキウス男爵やアルスター公爵も静かに耳を傾ける。


ジークフリートは真剣な眼差しに戻り、ルーカスへとまっすぐな提案を投げかけた。


「ルーカス。君を再び表舞台に引き戻すつもりはない。だが、君を隊長とした『北方警備隊』を新たに結成し、このムーツ領一帯と迎賓館の警備を一任したいと考えている。どうだ、引き受けてくれないか?」


それは、かつて国に裏切られた男にとって、再び国家の重要な任務に就くという栄誉であると同時に、過去のトラウマを呼び起こす提案でもあった。


しかし、ルーカスは表情一つ変えず、静かに首を横に振る。


「……お断りします、殿下。私はすでに騎士団を追放された身です。今更、国のために剣を振るうつもりはありません」


即答での拒絶。だが、ジークフリートは諦めない。それだけの器と因縁がルーカスにはあると知っているからだ。


「そう焦るな、ルーカス。何も王国騎士団の看板を背負えと言っているわけではない。この男爵領を守るため、そして何より――かつて君を慕い、理不尽に散っていった者たちの意志を継ぐ者たちでその部隊を構成する。……すぐにとは言わない。よく考えてくれ」


王弟からの重みのある依頼。


元副団長の胸中を去来するかつての記憶と、いま守るべきムーツ領の平穏。ルーカスは鋭い眼光を伏せ、その場では返答を保留するのだった。

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