王弟殿下が驚嘆する最先端農業
北の大地での贅沢すぎる初日を終え、心身ともにすっかりリフレッシュされた王弟ジークフリートは、二日目の朝も絶好調だった。
朝から再び温泉で体を温め、本格的なフィンランドサウナで「ととのう」極上の朝活をキメたジークフリートは、どこか神々しいほどの爽やかな表情を浮かべて迎賓館のロビーへと現れる。
「いやはや……朝のサウナと温泉もまた格別だな。すっかり頭が冴え渡ったぞ」
すっきりと着こなした旅装姿のジークフリートに、朝食を共にしたビクトリアも「殿下、あまりに肌ツヤが良すぎて眩しいくらいですわ」と上品に笑った。
こうして極上の朝を迎えた王弟ご一行は、本日のメインとなる視察へ向けて出発する。
目指すは、新しく生まれ変わったばかりの男爵邸――そして、その周辺地域だ。
実は、この迎賓館から男爵邸に至るまでの広大な周辺エリアは、すべてアルスター公爵家の全額出資によって美しく再整備されていた。
石畳の整った道路や、景観を損なわないように計算された街並みは、さながら王都の高級貴族街を思わせるほどの洗練された雰囲気を醸し出している。
馬車に揺られて進むことしばし。一一行が最初に到着したのは、周囲の景色の中でもひときわ異彩を放つ、巨大で美しいガラス張りの一画だった。
「おお……これは?」
ジークフリートが馬車から降り立ち、思わず声を漏らす。
そこにそびえていたのは、ブルーフォレスト伯爵領産の極上の透明度を誇るガラスを贅沢に使用した、巨大な近代式農業温室だった。
「ようこそお越しくださいました。こちらが、我が領の誇る夏秋イチゴの栽培温室でございます」
案内役を務めるイチカが、誇らしげに胸を張って出迎える。
さっそく温室の中へと足を踏み入れた王弟ご一行は、その内部の環境に息を呑んだ。
北国の外気温が嘘のように、室内はまるで春の陽気のようにポカポカと心地よい暖かさに満ちている。
「ふむ……外の寒さが嘘のようだな。それに、このガラスの透明度も素晴らしい。光がくまなく行き届いている」
ジークフリートが感心したようにガラス天井を見上げ、ビクトリアも「こんな暖かい空間で、季節外れのイチゴが育っているなんて……まるで魔法のようですわ」と目を輝かせた。
(ふふふ、この温室の心臓部――巨大な熱源や温度を細かくコントロールしている複雑な配管の数々は、男爵邸の建て替えと周辺整備のタイミングに合わせて、すっきりと壁の裏や地下へ隠蔽する改装を済ませてあるのだ)
技術的な企業秘密や、景観を無骨にさせないための細やかな配慮が完璧になされていることに、視察に同行していたアルスター公爵も満足げに頷いている。
さらに、イチカの案内で温室の奥へと進んでいくと、他の列とは一味違う一角が見えてきた。
そこだけ通路が贅沢なまでに広くゆったりと整備されており、幅広いドレスの裾でも優雅に歩けるような工夫が凝らされている。
「こちらは、ただ育てるだけでなく『体験』してもらうためのスペースとなっております」
イチカがそう言って指し示した通路のすぐ脇には、外へと通じる専用の出入口が設けられていた。
その扉を抜けて外に出ると、目の前には緑豊かな庭園と、上品なしつらえの美しい東屋がひっそりと佇んでいる。
「おや……?」
不思議そうに首をかしげるジークフリートを促し、イチカはその場でイチゴの苗から真っ赤に熟した夏秋イチゴを一つ優しく摘み取ってみせた。
「このように、温室で育てたばかりの最も美味しい状態のイチゴをご自身で摘み取り、すぐ隣の東屋に持ち込んで、淹れたてのお茶と一緒にその場で味わっていただける仕組みにしているのです」
東屋のテーブルには、すでに湯気の立つ紅茶のセットや、イチゴを引き立てる特製のクリームなどが上品に用意されていた。
温室での最新農業の視察から、摘みたてのフレッシュな果実を味わう極上のティータイムへの美しい動線。
農業を単なる「生産活動」ではなく、最高級の「アミューズメント」へと昇華させたその発想の鮮やかさに、ジークフリートは深く唸るしかなかった。
「なるほど……! 作る技術を見せるだけでなく、そこに最高の体験価値までセットで提供するとはな。恐れ入ったよ、イチカ嬢。君の発想には、いつも驚かされてばかりだ」
王弟殿下をここまで唸らせたイチカの農業プロジェクトは、この後さらに、領内の人々をも巻き込んだ驚きの展開へと進んでいく――!




