王弟ご一行到着! 極上のおもてなし
贅沢を尽くした『温泉迎賓館』の前に、一列の豪華な馬車列が静かに停車した。
いよいよ、王弟ジークフリート・フォン・イースティアと、その妻であるビクトリア・フォン・イースティアがムーツ領へと到着したのだ。
馬車から降り立ったジークフリートは、堂々とした威厳を漂わせつつも、どこか温かみのある笑みを浮かべている。
その傍らでは、王都の最先端の流行を纏った美しいビクトリア夫人が、上品に周囲を見回していた。
そんな王弟ご一行を一番に出迎えたのは、アルスター公爵夫妻
――エオノーラ夫人, とその夫である公爵だった。
「ようこそお越しくださいました、殿下、妃殿下。長旅、さぞお疲れでございましょう」
エオノーラ夫人が完璧な笑みと優雅な淑女の挨拶で出迎えると、ジークフリートも穏やかに頷く。
「ご足労感謝する、エオノーラ。こうして無事に北の大地へたどり着けて何よりだ」
挨拶が一通り済むと、エオノーラ夫人はすっと視線を横に流し、背後に控えていた一人の女性を招き寄せた。
「殿下、妃殿下。ご紹介いたします。こちらが、今回の諸々の新機軸を生み出し、このムーツ領に新たな風を吹き込んでいるシモキタール男爵令嬢――イチカでございます」
エオノーラ夫人に促され、イチカは居住まいを正して一礼した。
「はじめまして、殿下、妃殿下。シモキタール男爵令嬢のイチカと申します。よくぞお越しくださいました。どうぞ旅の疲れを癒やしてくださいませ」
王都からやってきた大物が相手とあって内心は少し緊張していたものの、エオノーラ夫人の堂々としたエスコートのおかげで無事に挨拶を終えることができた。
イチカが案内したのは、迎賓館の中に新しく整備されたばかりの贅沢な応接スペースだった。
窓の外には雄大な北国の自然が広がり、旅の緊張をほぐすには絶好のロケーションだ。
テーブルの上には、この地ならではのおもてなしが用意されている。
王弟ジークフリートの前に置かれたのは、地元の特産品であるリンゴを発酵させて作った、キリッとした喉越しのシードル。
グラスの中で繊細な泡が弾け、芳醇な香りが鼻腔をくすぐる。
一方、ビクトリア妃殿下の前には、湯気が立ち上る香り高いアップルティーと、そして――あの伝説の「ショートケーキ」が上品な皿に載せて供された。
「ほう……これは、見たこともないデザートだな」
ビクトリア妃殿下は、真っ白な生クリームと鮮やかな赤のコントラストに目をパチクリとさせた。スプーンで一口分をすくい、そっと口に運ぶ。
――瞬間。
ビクトリア妃殿下の優美な瞳が、わずかに見開かれた。
ふんわりと軽いスポンジの食感と、ミルキーでコクのあるクリーム、そしてイチゴの甘酸っぱさが口の中で極上のハーモニーを奏でる。
王都の高級菓子店でも味わったことのない、圧倒的な新しさと繊細な美味しさに、妃殿下は思わずうっとりと息を漏らした。
「……まぁ。なんと軽やかで、上品な甘さなのでしょう……。これが、北方の地で作られているというのですか?」
「はい、気に入っていただけて何よりです」
イチカが誇らしげに微笑むと、隣でシードルを一口飲んだジークフリートも
「なるほど、これは美味い。旅の疲れが一気に吹き飛ぶな」
と満足そうに喉を鳴らした。
ウェルカムスイーツで最高のスタートを切った後、一行はさらに極上のリフレッシュタイムへと案内される。
次なる目的地は、ムーツ領自慢の温泉とフィンランドサウナだった。
すでに前入りしていた王弟の配下たちから事前の作法やルールを徹底的に叩き込まれていたジークフリート夫妻は、少しの戸惑いも見せずにおずおずと脱衣所を抜けて湯浴みへと向かう。
「ふぁぁ……っ……」
湯船に肩まで浸かった瞬間、ジークフリートの口から思わず気の抜けたような感嘆の声が漏れた。旅の強張った筋肉が、じわじわと解きほぐされていく。
さらに、その後に待ち受けていたのは、木の良い香りが漂う本格的なフィンランドサウナだった。
熱せられたサウナストーンにアロマ水をかけ、立ち上る蒸気を全身で浴びる。しっかりと体を温めた後、キリリと冷えた水風呂へ――。
そして、外気浴スペースのウッドチェアに深く腰掛けたとき、ジークフリートの全身を電撃のような心地よさが駆け巡った。
(なんだ、この感覚は……! 脳の芯が真っ白になり、体がまるで空に溶けていくようだ……!)
世に言う「ととのう」という究極のリラックス状態を初体験した王弟殿下は、あまりの心地よさに、しばらくの間言葉を失い、ただボーッと北国の澄んだ空を見上げるのだった。
王都の喧騒を忘れさせる極上の癒やしは、まだ始まったばかり
――こうして、王弟ご一行の贅沢すぎる一日目の幕が上がっていった。




