北の最高傑作華麗なるお披露目
どれほどの時間が経っただろうか。
サロンのソファで待つイチカの鼻腔に、ふわりと心地よい風が吹き抜けたような気がした。
それは、先ほどアトリエで調合したばかりの、サボンソウの爽やかなハーブの香りと、メープルシロップのほんのり甘く芳醇な香りの余韻。
「お待たせいたしました、お姉様!」
弾むような声とともにサロンに戻ってきたアリスは、文字通りお姫様のような圧倒的な輝きを放っていた。その後ろから、エオノーラ夫人も涼やかな笑みを浮かべて続く。
湯上がり特有のほのかな紅が差した二人の頬は気品に満ち溢れ、何より目を奪われるのはその髪だ。北国の冷たい乾燥にさらされることもあったはずの艶やかな髪が、まるで最高級の絹織物のようにしっとりとまとまり、光を浴びて美しい天使の輪を浮かべている。
「わぁ……! エオノーラ様も、アリスちゃんも、すごく……すごく綺麗です!」
イチカが感嘆の声を上げると、アリスは嬉しそうに頬を染め、イチカの衣の裾にキュッとすがりつくようにして熱弁を振るう。
「聞いてくださいお姉様! 浴室から上がった瞬間、わたくし、自分の髪とは思えないほどの滑らかさに言葉を失ってしまいましたわ! サボンソウの豊かな泡立ちはすっきりしているのに、きしむどころか、髪の一本一本が潤いのヴェールに包まれて……もう、魔法のようです!」
さらにアリスは、満面の笑みで言葉を重ねる。
「それに、この石鹸で洗ったお肌のしっとり感といったら……! いつもならお湯から上がった瞬間の乾燥なんてどこかへ吹き飛んで、もっちもちの吸い付くような触感ですの! さすがお姉様、天才ですわ……! わたくし、一生お姉様についていきます!」
感極まった様子の無邪気さを見せるアリスを微笑ましく見守りながら、エオノーラも優雅に言葉を継いだ。
「まったく、あの子の言う通りだわ。アピオスとメープルシロップの効能、そしてこのブルーフォレスト伯爵に作らせたガラス容器の圧倒的な高級感……。すべてが完璧に調和しているわね」
大絶賛する母娘の姿に、イチカは胸をなでおろし、嬉しそうに満面の笑みを咲かせた。
「やったぁ! 気に入っていただけて本当によかったです!」
「ええ、本当に。これなら、まもなく到着する王弟殿下一行も間違いなく度肝を抜かれることでしょう。迎賓用のアメニティとして、これ以上ない最高の一品よ」
エオノーラの称賛と、アリスのあふれんばかりの「お姉様大好き!」という熱視線を一身に受けながら、王弟来訪まであと一週間へと迫る。
準備万端に整ったムーツ領の隠し玉は、最高のクオリティをもって、貴族たちの心を完全に虜にする準備を完了させたのだった。




