高台の温泉迎賓館本格始動
アルスター公爵家からの潤沢な資金を背負い、ムーツ領の高台における「温泉迎賓館」計画は一気に現実味を帯びて動き出した。
「さあ、資金の心配がなくなったとなれば、次は中身ね。王都の貴族や要人たちを文字通り骨抜きにするような、極上のリゾート施設を作っちゃいましょう!」
設計図を広げた机の上で、イチカの目がギラリと輝く。
前世の記憶――それも現代の洗練された温泉施設やリゾートのノウハウをフルに活用する時が来たのだ。
彼女の頭の中には、すでに完璧なレイアウトが組み上がっていた。
「まず、メインとなるのは当然、広々とした大浴場と、雄大な自然や夜空を見渡せる露天風呂よ。高台という最高のロケーションを活かして、窓ガラスはガラス温室で培った技術を応用した開放的な大パノラマビューにするの。そして……外せないのが、これ!」
イチカが力強く書き込んだのは、「フィンランドサウナ」の文字だった。
熱したサウナストーンに水をかけて蒸気を発生させる本格的な仕様を説明すると、ロベルトさんは目を丸くして身を乗り出す。
「サウナ……? 熱した石に水をかけて、その蒸気で発汗を促すとは……聞いたことがありませんが、体を芯から温める効果は凄まじそうですね。貴族の連中が間違いなく飛びつく目玉になります」
前世の記憶をたどりながら、イチカはさらに熱を込めて語る。
「温泉で体を温めたあとにサウナで汗を流し、大自然の風を感じながら外気浴をする……。これらを組み合わせれば、ただの宿泊施設じゃなく、王都の貴族や淑女たちが我先にと殺到する『極上の療養リゾート』が完成するわ!」
イチカの熱のこもったプレゼンに、ロベルトさんは深くうなずき、感嘆の息を漏らした。
「素晴らしい……! 温泉の効能だけでも十分に売れると思っていたのに、サウナまで加われば、もはや王都のどんな高級サロンも敵いません。
さっそく熟練の職人たちを手配して、施設の施工を急ぎましょう」
莫大な資本と、前世の現代知識、そしてムーツ領の人々の力が噛み合い、伝説となる温泉迎賓館の建設工事が、いよいよ本格的に幕を開けるのだった。




