高台の温泉と新たなインフラ計画
王弟の来訪を公爵夫人を介して穏便に引き延ばしたものの、いつまでも逃げ回るわけにはいかない
――その現実を突きつけられたイチカとロベルトは、早速ムーツ領内の地理を見直し、要人迎撃のための「迎賓館」をどこに建てるべきかの検討を始めていた。
「王族や大貴族を招くとなれば、ただ部屋数が多いだけの粗末な建物では意味がありません。
警備上の見晴らしの良さはもちろんですが……何より、最高級の『おもてなし』ができる要素が欲しいところです」
ムーツ領の端で、古びた地図を広げながらロベルトが腕を組む。
すると、その様子を少し離れた場所から見ていたセレナが、ふと思い出したように声をかけた。
「それなら、東側の平野部を見下ろすあの高台はどうかしら?」
「高台……?」
「ええ。少し岩肌が露出していて開拓には手こずりそうだけど、そこを掘り進めていた職人たちが、『おや、ここから温かい水が湧き出たぞ』って言っていた場所があるのよ。試しに触ってみたら、しっかりとした良質な温泉だったわ」
その言葉に、イチカとロベルトはハッと顔を上げた。
「温泉、ですか……!?」
ロベルトが地図の該当箇所を指で示しながら、目を輝かせる。
「確か、あのあたりですね……! 平野部や開拓村の全体を一望できる見晴らしの良さに加えて、天然の温泉が湧き出ているとなれば、これ以上のロケーションはありません。王都の貴族連中を唸らせるには、ただの宿泊施設ではなく『極上の湯治も兼ねた迎賓リゾート』に仕立て上げるのが一番効果的だ!」
イチカも地図を覗き込み、前世の記憶にある高級リゾートホテルのような光景を脳裏に思い描いた。
「素晴らしいわ! 温泉があれば、旅の疲れを癒やしてもらうだけじゃなく、極上のリラクゼーションを提供できるわね。それに、高台なら万が一の際の警備や防犯上の視界も抜群よ」
ただの「お断り逃れのためのその場しのぎ」から一転、ロベルトの商人と貴族としてのプライド、そしてイチカのプロデュース魂に火がつき、計画は一気に壮大なものへとスケールアップしていく。
「よし、決まりですね。どうせ作るなら、王都の宮殿にも負けない、しかしこのムーツ領の自然を活かした極上の迎賓館を建てましょう。建築資材のガラス温室のノウハウも活かせるはずです」
夏秋イチゴの栽培成功という最初のマイルストーンの裏で、ムーツ領は新たな一大プロジェクト
――「高台の温泉迎賓館」の建設に向けて、力強く動き出すのだった。




