新たな風と緑の宝物
オーマ村での大盛況な宴を終え、ムーツ領の拠点へと戻ったイチカたちの元に、さらなる大きな動きが訪れようとしていた。
アルスター公爵邸での茶会から数日後。
開拓村の入口に、一際立派な一台の馬車がガタゴトと音を立てて到着した。
御者台から飛び降りてきたのは、旅装に身を包んだ凛々しい青年
――アルスター公爵家の三男であり、実地を学ぶためにやってきたロベルトその人だった。
「お待たせしました、イチカさん。アルスター公爵家三男、ロベルトです。今日からここで、商売と実務のすべてを叩き込みに参りました!」
きっちりと礼をするロベルトの姿に、イチカは「遠いところ、よく来てくださいました!」と笑顔で迎える。
しかし、ロベルトの背後にある馬車の荷台からは、何やらただならぬ気配が漂っていた。
「それでですね、到着早々なのですが……じつは出発の直前、ルーカスさんから厳重な言づけと、とある荷物を託されたのです」
ロベルトが苦笑いしながら荷台の幌をグッと持ち上げると、そこには――丁寧に湿度や温度が管理された、幾重もの木箱が隙間なく積まれていた。
「これは……?」イチカが目を丸くすると、ロベルトは一枚の手紙を差し出した。
署名はルーカス。手紙には、かつてルーカスが王都の騎士団副団長としてのコネや人脈をフル活用し、極秘裏に入手して大切に保管していた「希少な夏秋イチゴの苗」のことが綴られていた。
『……俺が以前から持っていたあの苗は、ただのイチゴじゃない。
寒暖差の激しい過酷な環境でも育ち、夏から秋にかけても実をつける奇跡の品種――「夏秋イチゴ」の苗だ。
今回の王都での大成功を見て、お前ならこのブランドをさらに飛躍させられると確信した。
ロベルトに護衛と運搬を兼ねて、手持ちのすべてを持たせた。大切に育ててくれ』
読み終えたイチカの胸に、熱いものがこみ上げる。
(ルーカスさん……! 王都にいる間から、こんな仕込みをしてくれていたなんて……っ!)
「なるほど、これがルーカスさんが言っていた『事業拡大の切り札』ですか」
ロベルトは荷物の重要性をしっかりと理解しているらしく、その瞳に熱い野心を燃やしていた。
「机上の空論など学ぶ必要はありませんね。この膨大な夏秋イチゴの苗をどうムーツの土に根付かせ、どうブランド価値を最大化して流通させるか――これこそ、僕がこの村で学ぶべき最高のビジネスだ!」
優秀な貴族の血筋らしく、ロベルトは一瞬でこの苗の価値と、今後の戦略的意義を看破していた。
オーマ村とのグルメを通じた新たな交流に加え、ルーカスが繋いだ「夏秋イチゴ」という最強のカード、そしてそれを支える新しい仲間・ロベルトの加入。
ムーツ領は今、単なる辺境の開拓村から、王都を揺るがす一大ブランドの拠点へと、猛烈なスピードで生まれ変わろうとしていた。




