華やかなるお茶会と因縁の再会
アルスター公爵邸の広大な庭園で催される「ルナ・ソレイユ」のお披露目茶会。
その直前、イチカは控室でエオノーラ夫人の厳しいチェックを受けていた。
上品な刺繍があしらわれた、気品ある男爵令嬢向けのドレス姿を見た夫人は、不満そうに眉をひそめる。
「ダメよ、イチカ。そのドレスではまったく話にならないわ」
「えっ……? 一応、格式に合わせたものを用意したのですが……」
戸惑うイチカに、夫人は冷徹ながらも確信に満ちた眼差しを向けた。
「男爵令嬢としての場当たり的な身なりならそれでも十分でしょうけれど、今回は違うわ。これからあなたはこの王都で、我がアルスター公爵家の威信を背負って『戦場』に赴くのよ。あんな連中や、あのグラディス公爵家をぎゃふんと言わせるための『最高の装備』にしなさい!」
夫人の強い命により、用意されていたのは公爵家の息がかかった一流デザイナーによる、圧倒的な気品と気高さを纏った特製のドレスだった。
それを身にまとった瞬間、イチカの立ち姿はまるで戦場に赴く女騎士のように凛としたオーラを放った。
そして迎えたお茶会本番。
庭園の特設ブースに並べられた「ルナ・ソレイユ」の野いちごジャム、メープルシロップ、そして蜜蝋の美容用品は、王都の貴婦人たちの心を瞬く間に掴んだ。
アリスが熱心にその魅力を布教し、試作品を試した高位貴族の夫人たちが次々と絶賛。
用意した商品は飛ぶように売れ、ブランドは大盛況のうちに幕を開けた。
完全な勝利を収め、心地よい達成感に浸りながら庭園の回廊を歩いていた時だった。
ふと前方に、見覚えのある嫌な人影が姿を現す。
「――っ」
そこにいたのは、かつてイチカを理不尽に婚約破棄したグラディス公爵家の嫡男・レナードと、その傍らにぴったりと寄り添う、あの時イチカを嵌めたアイリ男爵令嬢だった。
華やかなお茶会の喧騒の中、最悪の因縁が目の前で交錯したところで、息を呑むような静寂が訪れるのだった。




