森の宝石、極まる試食会
氷室で冷やされ、鮮度を保ったまま摘みたての野いちごが調理場へと運ばれた。
メープルシロップの黄金色の甘さと、野いちごの深紅の酸味が組み合わさり、鍋の中で煮詰められていくにつれて、調理場全体に甘酸っぱく芳醇な香りがふわりと広がっていく。
普段は無口で、必要なこと以外は滅多に言葉を発しないルーカスが、なぜかじっと鍋を見つめたまま微動だにしていなかった。
ついに完成した「野いちごのメープルジャム」をスプーンですくい、厳かにテイスティング用のパンへと乗せるルーカス。
周囲の村人たちが固唾を飲んで見守る中、彼は静かにそれを口へと運んだ。
一瞬の沈黙。
次の瞬間、ルーカスの背後から、なぜかありえないはずの激しい爆風が吹き荒れ、彼の虚ろだった瞳がカッと見開かれた。
『な、なんだこの旨味は……ッ!?』
普段の寡黙さが嘘のように、ルーカスはビシッと指を突き出し、まるで伝説の料理評論家さながらの口調で語り出し始めた。
「ば、馬鹿な……! 小粒ゆえに凝縮された野いちごの野性味溢れる酸味が、舌の上で暴れ回るかと思いきや……! 後から追いかけてくるメープルシロップの気品高いコクとまろやかな甘みが、その尖った荒々しさを包み込み、完璧なまでの調和を生み出している……ッ!」
さらにルーカスは、感極まったように天を仰ぐ。
「これは単なるジャムではない! 厳しい冬を越えたムーツ領の荒野が、春の訪れとともに生み出した奇跡の交響曲……! 荒々しい森の息吹と、洗練された甘みのマリアージュが、私の味覚の全胞子を目覚めさせるわ……美味いっ!!」
あまりの熱弁と、普段の寡黙さとの凄まじいギャップに、調理場の空気が一瞬で凍りついた。
(……ちょっと待って。普段あんなに喋らないくせに、何なのこの人……?)
イチカの体内で、苺香の意識が激しくツッコミを入れる。
(脳内で勝手にどこかの料理界の重鎮――味皇でも降臨してるわけ!? ただの野いちごとメープルを煮詰めただけなのに、なんでそんなに劇画チックなのよ……っ!)
心のなかで激しく頭を抱える苺香のツッコミなど知ったことかと言わばかりに、ルーカスは満足げにうなずき、再び無言に戻って2口目に手を伸ばそうとしている。
しかし、そのシュールで熱すぎる光景に、張り詰めていた村の空気がほどけ、マルクや集まった子供たちからクスクスと笑い声が漏れた。
過酷な開拓の日々のなかで生まれた最初の特産品は、こうして最高の笑顔とともに、人々の心を満たしていくのだった。




