森の宝石と少年団の誤算
メープルシロップの採取が一段落し、春の雪解けを迎えたムーツ領の事務室。
大きな地図を広げたマルクは、胸をときめかせながらイチカに声を弾ませた。
「イチカ様! メープルシロップがこれだけ順調なら、次はやっぱりイチゴだよな! さっそく畑を耕して苗を植えれば、すぐに甘くて赤い実がどっさり採れるよな! おれ、毎日水やりも虫退治もがんばるからさ!」
勢い込むマルクに、イチカは小さく首を横に振った。
「残念だけどマルク、そんなにすぐには収穫できないわ。野いちごやちゃんとしたイチゴの苗は、育つまでにじっくり時間がかかるの。それに、私たちが今考えているのは自然に生えている『野いちご』の採取なんだけれど、あれは畑ですぐ増やせるようなものじゃないわ。そもそも収穫できる時期も限られているし、すごく傷みやすい。氷室でも数日しか持たないのよ」
「え……うそだろ……。そんなに待つのかよ……」
マルクの肩が、ガクッと大きく落ちた。夢いっぱいに描いていた未来が崩れ去り、テーブルに突っ伏しそうになる。
だが、そんな気落ちしたマルクを見て、イチカは静かに言葉を続けた。
「そんなに落ち込まないで。時間がかかる栽培は別の方法を考えるとして、問題は『今、森に生えている野いちご』よ。実は、そこであんたの力が必要なんだけれど……どうかな」
「……おれの、力?」
顔を上げたマルクの目が、わずかに期待の色を帯びる。
「ええ。森のあちこちに点在している野いちごは、背が低くて草むらに隠れているから、大人の目線だと見つけるのが意外と大変なの。でも、子供の視点ならすぐに見つけられるわ。だから、マルクを中心に、村の子供たちを集めた『野いちご採取の少年団』を作りたいの」
「少年団……! おれがリーダーの、子供部隊か!?」
マルクの顔に、先ほどまでの落胆はどこへやら、一気に血の気が戻り、瞳が輝き出した。
自分が村の役に立つという高揚感が、彼の背筋をまっすぐにさせる。
しかし、そこに横から冷静な声が挟まった。
「待て、マルク。面白そうな話だが、手放しで賛成はできんな」
腕を組んで控えていたルーカスが、鋭くも真剣な眼差しを向ける。
「春の森には、まだ冬眠から目覚めたばかりの獣や、思わぬ危険な魔獣が潜んでいることもある。子供たちだけで奥へ入るなど言語道断だ。行くと言うなら条件がある。――採取には必ず、大人の同伴を絶対のルールとすることだ」
「えーっ、大人と一緒かよ……!」
とマルクは不満そうにほっぺたを膨らませたが、ルーカスの妥協のない視線に気圧され、すぐに小さくうなずいた。
「……わかったよ。安全第一で、大人の人にも手伝ってもらう」
「そう、安全第一で頼むわ。みんなで協力して摘み取った野いちごは、すぐに氷室で予冷して、メープルシロップと合わせた最高のジャムに仕上げるから」
イチカの言葉に、マルクは再びやる気をみなぎらせ、力強く拳を握りしめた。
こうして、傷だらけの過去を乗り越えた者たちが支え合う辺境の地で、子供たちの元気な足音を交えた新たな特産品作りが、一歩を踏み出すのだった。




