厳冬の深まりと、氷室の設え
一年の中でも最も寒さが厳しさを増す時期――いわゆる「寒の内」の真っ只中、ムーツ領は完全に徹底的な白銀の世界に閉ざされていた。
吐く息は一瞬で白く凍りつき、外を歩くだけで肌が痛むような、文字通りの極寒である。
ボロボロの旧領主邸のダイニングで、私は暖炉の火にあたりながら、父であるルキウスに向き直った。
「――お父様、いよいよ本格的な厳冬期に入りましたわね。そろそろ、『氷室』の作業を急ぎましょう」
ルキウスは手元の温かいお茶のカップを置き、じっと窓の外の雪景色を見やった。
「そうだな……。ここからの寒さこそがこの土地の本当の厳しさだ。だが、お前が言うように、この底冷えする冷気をただ耐え忍ぶだけではなく、次の季節へ残すというのは実に理にかなっている」
「ええ。今のうちに最も厚く凍った川の氷を切り出し、地中深くに設けた氷室へ貯蔵するのです。これから私たちが軌道に乗せようとしている特産品の加工や鮮度管理において、この氷は他領との決定的な差別化を生む最高の切り札になりますわ」
王都にいた頃なら、夏の氷など王侯貴族すら贅沢品として競って買い求めるほどの代物だ。しかし、この最果てのムーツ領では、身を切るような厳しい寒さそのものが、私たちに富をもたらす数少ない資源だった。
「よし、一番冷え込みが厳しく、氷の質も最高のこの時期を逃す手はないな。早速、アルフレッドたちに声をかけよう」
ルキウスの力強い言葉に背中を押され、私はシルバー部隊のリーダーであるアルフレッドに指示を出した。
「アルフレッド、氷室の地下穴の最終掘削と、川からの氷の切り出しをお願いするわ」
「はっ、お任せください! この凍てつく寒さの中での力仕事こそ、我がシルバー部隊の真骨頂です。
それにしてもお嬢様、一番寒い時期を選んでこんな大掛かりな備えを始めるとは……相変わらず先を読む目が鋭い!」
豪快に笑うアルフレッドの指揮の下、私たちは領地内の日当たりが悪く、地熱の影響を受けにくい斜面を選んで地下深くの空間を完成させ、切り出した分厚い氷を隙間なく搬入していく作業に取り掛かった。
足元では、相変わらず冬眠のタイミングを完全に逃し、むしろこの寒さを満喫しているかのように子グマのルナが「キュイッ」と雪を蹴散らして駆け回っている。
その無邪気な姿に、殺伐としがちな作業場にも和やかな空気が漂った。
(王都の連中は、私たちがこの厳しい冬を越せるわけがないと笑っているでしょうね……)
氷が詰まった冷気漂う地下室の入り口を見つめながら、私は胸の内で静かに笑った。
一番寒さの厳しいこの時期を乗りこなし、私たちはただ生き延びるだけでなく、このムーツの地から王都をあっと言わせる反撃の準備を着々と進めているのだ。




