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異世界のむつ市(最北端)へようこそ!  作者: 一条ひかり


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白銀の記憶と、兄妹の絆

かまくらの中で温かいお茶をすすりながら、ルナのモフモフとした頭をなでていると、ふと私は思い出したように隣に座るお父様へ尋ねた。


「そういえばお父様……。ルーカスさんはもともとこのムーツの山奥に一人で暮らしていましたけれど、どうしてあんな風に、私たちを気にかけてくださるのかしら?」


私の問いにお父様は「さあな……」と首をかしげ、少し思案げな顔をした。


「私たちが王都からこのムーツへ追放されてきた時、あいつはすでにこの山の奥に身を隠すように暮らしていた。お前も知る通り、ルーカスはめったに自分の過去や昔の事情を自分から語ろうとしないからな。私にとっても、あいつがどういう経緯でこの地に行き着いたのかは分からないんだ」


――そうだった。お父様は私と一緒に王都から理不尽に放り出された身だ。


ルーカスさんがこのムーツに来る前の詳しい事情なんて、知るはずもなかった。


けれど、思い出されるのはこれまでの穏やかなやり取りだ。


元猟師のルーカスさんは、ぶっきらぼうで口数も少ないけれど、私たちがこの地で生きていくための知恵を教えてくれた。


その瞳の奥には、どこか深い孤独が宿っているように私には感じられた。


(もしかしたら、ルーカスさんも……昔、私たちと同じように、大切な何かを失ったことがあるのかしら……)


王都の華やかな表舞台から引きずり下ろされ、すべてを失った痛みを抱える私には、ルーカスさんのまとっている静かな影が、どこか他人事とは思えなかった。


血の繋がりはなくとも、私にとって彼は、どんな時も味方でいてくれる世界で一番頼りになるお兄様なのだ。


『なぁイチカ。お前を見ていると、どうしても昔いた妹を思い出しちまうんだ。もしあいつが生きてたら、お前みたいに強くて明るい娘になってたんじゃないかってな』


以前、彼が照れくさそうに呟いてくれた言葉が頭によみがえる。


ルーカスさんには昔、王都にいた頃にたった一人の可愛い妹がいた。


けれど、その妹はすでに病で亡くなってしまっているのだと、以前ポツリと教えてくれたことがある。


「私、お兄様がいたらいいなってずっと思ってましたの。王都にいた頃の婚約者たちは自分の保身や利益ばかりで、誰も私の本当の気持ちなんて見てくれなかったから……。だから、ルーカスさんがお兄様になってくれて、本当に嬉しかったわ」


私がそう呟くと、お父様は少し驚いたような顔をした後、穏やかに目を細めて私の頭をなでた。


「そうだな。あいつも不器用だが、お前のことを本当の妹のように大切に思ってくれているはずだ。……今は山奥の小屋で一人で過ごしているだろうが、雪が明けたら、また顔を見せてやるといい」


お父様の優しい言葉にうなずき、子グマのルナが「キュイッ!」とそれに合わせるように元気に鳴いた。


外では相変わらず冷たい吹雪が世界を白く染め上げている。


けれど、雪をくり抜いた小さなかまくらの中には、言葉にしなくても通じ合う温かな兄妹の絆と、春の訪れを待つ確かな希望が満ちあふれていたのだった。

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