冬ごもりの作戦会議と、春への布石
王都からの定期便――カトリーナ様からの熱烈な手紙が届いたその日の夜。
私たちは旧領主邸の暖炉の前に集まり、さっそく「春に向けた大増産計画」の作戦会議を開いていた。
暖炉の火がパチパチと音を立て、凍てつく窓の外の吹雪の音をかき消していく。
「――というわけで、カトリーナ様からは『干し貝柱とアピオスは大好評、イチゴジャムも独占契約間違いなしだから、春になったらすぐに大々的な生産体制を作れ』とお達しが来ましたわ!」
私がテーブルの上にカトリーナ様の手紙をパッと広げると、アルフレッドさんは腕を組んで豪快に笑った。
「ははぁ、王都の貴族連中をうならせたもんですかい! さすがはイチカ様だ。シルバー部隊の野郎どもも、次の春は気合を入れて貝の採取やアピオスの収穫に走り回らなきゃいけねえな!」
「ああ。だがアルフレッド、それだけでは足りん」
父であるルキウスが、真剣な眼差しで一枚の羊皮紙を指さした。それは私がこの冬の間にコツコツと引き続けていた設計図だ。
「カトリーナの言う『大々的な生産体制』を春の雪解けと同時に稼働させるためには、今この冬の間に、作業の効率化と拠点の整備を終わらせておく必要がある。……そうだな、イチカ?」
「その通りですわ、お父様!」
私は力強くうなずき、計画の全貌をみんなに説明した。
「今のままの台所仕事の延長じゃ、王都からの膨大な注文量に絶対に対応しきれなくなります。だから、春の雪解けと共に、この旧領主邸の敷地内に専用の『総合加工場』を新しく建てるのよ!」
「ほお、加工場をな」
「ええ。貝ひもの炙りや寒干しタコの仕込み、アピオペーストの大量精製、そしてイチゴジャムの大釜煮込み――それらをすべて一箇所で、衛生的に、かつ効率よく行える専用の建物にするの。薪の竈の配置や、水洗いの動線もぜんぶ計算済みよ!」
私が得意げに設計図を見せると、ルーカスさんが「ほう……」と感心したように目を細めた。
タイトルの大きな絵が頭に浮かんだのだろう。元猟師の彼の目から見ても、その計画はただの思い付きではなく、かなり理にかなったものだったらしい。
「ただの物置じゃなくて、仕事が分担できるように部屋が分かれてるんだな。これなら女子供や年寄りでも、手分けして効率よく作業ができそうだ」
「そう! まさにそこが狙いですの。ムーツ領全体の雇用の創出にもなるし、みんなで手分けすれば生産スピードが何倍にも跳ね上がるわ」
とはいえ、今は外が猛吹雪の真冬の最中。今すぐスコップを持って土を掘ったり、木を切って建物を建てたりすることは物理的にできない。
だからこそ、この「動けない冬の期間」が重要だった。
「春になって雪解けの泥濘が収まった瞬間、一秒でも早く工事を始められるようにするの。今のうちに、冬の間に伐採しておいた木材の割り出しや、必要な道具のリストアップ、誰にどの作業を任せるかの人員配置を完璧に固めておく。それが、今回の冬ごもり中の私たちのミッションよ!」
私の熱弁を聞いたアルフレッドさんは、深く納得したように大きくうなずいた。
「なるほどなあ……。どうせ外に出られねえからって布団被って寝てるだけじゃなくて、頭をフル回転させて春のスタートダッシュの準備をしておくってわけだ。おもしろい! 身が引き締まるぜ!」
「よし、では役割分担を決めよう。木材の切り出しと補強の段取りは私とルーカスで進める。設計と細部の調整はイチカ、お前が頼む」
「お任せください!」
外の世界とは完全に遮断された、極寒のムーツ領。
しかし、この小さな旧領主邸の中では、春の黄金ラッシュに向けて、熱い野望と緻密な内政チートの歯車が静かに、しかし確実に噛み合い始めていたのだった。




