捨てたら罰が当たりますわ!
カトリーナ様が二大切り札を馬車いっぱいに積み込んで王都へ再出発した翌日。
旧領主邸の庭には、作業を終えたアルフレッドさんたちシルバー部隊の姿があった。
「イチカ様、干し貝柱の仕込みは順調でさあ。ただ……この残った『貝ひも』の山、どうしましょ? いつもなら海に捨てちまうんですがね」
アルフレッドさんが指さした樽の中には、ホタテの貝柱の周りにある大量のひも部分が入っていた。
「まあ……! こんなに立派な貝ひもを捨てるなんて、もったいないにも程がありますわ!」
私が思わず声を上げると、アルフレッドさんは困ったように首をひねった。
「そう言われましてもねえ……硬くて生じゃ食いづらいし、王都への出荷にも向かんのですわ」
「ふふ、大丈夫ですわ。加工の工夫次第で、私たちの極上のおつまみに化けますのよ!」
私が腕まくりをすると、アルフレッドさんは嬉しそうに別の大きな水桶を担ぎ上げてきた。
「ならついでに、これも見てもらえますかい? 領民の若いのが浅瀬のカゴ漁でたくさん獲ってきた巨大なタコでさあ。茹でて食うにはうまいんだが、足が早くて遠くには運べなくてね」
水桶の中では、生きのいい立派な水ダコがニョキニョキと足を蠢かせていた。
「素晴らしいわ、アルフレッドさん! 貝ひもとタコ……これで完璧な『最北の自家用珍味セット』が作れますわ!」
私はさっそく、旧領主邸の厨房でお父様やエリスにも手伝ってもらいながら作業を開始した。
まず貝ひもは、塩で揉んでぬめりと汚れを徹底的に洗い流す。それを甘辛いタレに漬け込み、極寒の浜風が吹く日陰でじっくりと乾燥させた。仕上げに網に乗せて火でサッと炙れば――香ばしい香りが厨房いっぱいに広がった。
「わあ……! お姉様、すごく良い匂いがする!」
エリスが目を輝かせ、足元ではルナが「キュ〜ン!」と鼻をヒクヒクさせて足元にしがみついてくる。
一方のタコは、薄切りにしてサッと茹で上げた後、塩を振って寒風で一気に干し上げた。噛みごたえと旨味を極限まで引き出した『寒干しタコ』の完成だ。
「さあ、出来上がりましたわ! 試食してみてくださいな!」
私が香ばしく炙った貝ひもと、寒干しタコをお皿に盛って差し出すと、アルフレッドさんはおそるおそる炙り貝ひもを口に運んだ。
コリッ……ポリッ……と心地よい音が響く。
「……っ!? なんじゃあこの香ばしさは……! 噛めば噛むほど、甘辛いタレとホタテの出汁がジュワッと染み出てきやがる……!」
勢いそのままに寒干しタコも口に放り込むと、アルフレッドさんは目を見開いて叫んだ。
「う、うますぎる……! これは酒だ! 家から酒を持ってきてくれえ!! 冬の厳しい作業の後に、仲間と一緒にこれを突っついたら最高のご褒美になりやすぜ……!」
「ふふふ……大成功ですわね!」
お父様も一口食べて感心したように頷いている。
「ああ、素晴らしい味わいだ。王都に出さずとも、領内の皆の慰労や冬の楽しみとして配れば、皆の士気も大いに上がるだろう」
「ええ! 領民の皆さんの頑張りがあってこそのムーツ領ですもの。美味しいものは自分たちでも楽しまないと損ですわ!」
捨てられるはずだった食材が、寒さ厳しいムーツ領で暮らす人々の夜を温める最高のご褒美へと生まれ変わった。
私たちの手元には、王都でのビジネスだけでなく、領内の暮らしを豊かにする温かい笑顔が溢れていた。




