黄金を抱えて帰ってきた令嬢
アピオスのスイートペーストが完成し、ルーカスさんの胃袋まで完全に掴んだ数日後のこと。
極寒の風が吹き荒れるムーツ領に、豪奢な馬車が一台、激しい音を立てて駆け込んできた。
崖の上の自宅――旧領主邸の窓から外を眺めていた私は、思わず目を丸くした。
「お父様、エリス! カトリーナ様が戻られましたわ!」
私たちが玄関を開けると、防寒具に身を包んだカトリーナ様が、興奮で頬を真っ赤に染めながら飛び込んできた。
「イチカ様……! やりましたわ、大成功……いえ、大大大大成功ですわ!!」
「カトリーナ様! お帰りなさいませ。……ということは、リンゴジャムは……?」
カトリーナ様は力強く頷くと、従者に命じてずっしりと重い革袋を幾つも運ばせた。
テーブルの上に置かれた革袋からは、ジャラリと重厚な金属音が響き渡る。
「王都の富裕層や貴族のお茶会で、あの『ふんわりリンゴジャム』をお披露目したところ、瞬く間に大評判になりましたの! 『こんなに上品で華やかな甘味は食べたことがない』『どこで手に入るのだ』と問い合わせが殺到して……持っていった分はすべて、言い値の高値で完売いたしました!」
「まあ……! 言い値で完売だなんて、すごいわカトリーナ様!」
エリスがパッと目を輝かせ、お父様も感心したように革袋を見つめている。
足元ではルナが「クゥ〜ン?」と首をかしげながら、革袋の匂いをフリフリと嗅いでいた。
「これが今回の売上金から、イチカ様たちの取り分と、春からの事業拡大に向けた出資資金としてお渡しする分ですわ。金貨で三千枚ございます!」
「き、金貨三千枚……!?」
(ちょっと待ちなさいな……! 金貨十枚で庶民が普通に一ヶ月暮らせる価値がありますのよ!? 三千枚ということは、現代日本の感覚で言えば三千万円相当の大金……!?)
思わず目眩がしそうな額に、私はヤケクソ交じりの笑顔を浮かべた。
追放された当初は凍死と餓死の二択だったというのに、まさかこれほどの大金を手にする日が来るとは。
これだけの資金があれば、村の皆さんの雇用を守るどころか、春からの本格的な加工設備の導入も余裕で進められる。
「ですがイチカ様、王都の貴族たちはすでに次の入荷を首を長くして待っておりますの。ジャムの追加在庫はもちろんですが……何か新しい手応えはありましたかしら?」
カトリーナ様が商人特有の鋭く煌めく瞳で私を見つめてくる。
私はフッと自信に満ちた笑みを浮かべ、準備しておいた二つの瓶をテーブルの上に並べた。
「ふふ……カトリーナ様。期待以上のご準備をして待っておりましたわ。ジャムに続く、ムーツ領の新たな『二大切り札』をご案内いたしますわね」




