王城での陞爵式
王都に滞在中の私たちシモキタール一家は、指定された刻限に合わせて王城へと足を踏み入れていた。
男爵から『子爵』への陞爵式。
その特別な式典のため、ルキウスは今日のために新調した仕立ての良い正装と礼服に身を包んでいる。
ルキウスは少し緊張した面持ちで襟元を正し、イチカも胸を張って凛とした立ち振る舞いを心がける。
白磁の壁と金箔の装飾が施された王城の大広間には、すでに多くの貴族たちが集まっていた。
「見ろ、あれがシモキタール家だ」
「辺境の貧困領地だったムーツを、あっという間に一大産業地帯に変えたという……」
「新商品の美容パウダーも、王都の婦人方の間で争奪戦になっているらしいぞ」
列席する貴族たちから注がれるのは、好奇と感嘆、そしてほんの少しの嫉妬が入り交じった視線だ。
やがて重厚なファンファーレが鳴り響き、謁見の間の最奥にある重厚な扉が開かれた。
「――国王陛下、ご入場!」
侍従の声とともに会場全体が一瞬で静まり返り、全員が整然と頭を深く下げる。
重厚な玉座に着座された国王陛下の前へと、ルキウスとイチカが歩み出た。
「シモキタール男爵ルキウス、ならびにその娘イチカ。前へ」
「ハッ」
ルキウスとともに玉座の前で片膝をつく。
「ルキウス・フォン・シモキタール。そなたはムーツ領の治安と発展に尽力し、さらに新たな特産品の開発および海港の整備等、我が国の産業と防衛に多大なる貢献を果たした。その功績を称え、本日ここにシモキタール家を『子爵』へと陞爵させる」
侍従から恭しく捧げ持たれた子爵位の爵位状と、それを証する新たなる紋章の入ったペンダントが、お父様の手へと与えられた。
「ありがたき幸せにございます、陛下。この栄誉に恥じぬよう、今後とも王国と領民のために力を尽くす所存にございます」
頭を下げるルキウスの隣で、イチカも深く一礼する。
さらに国王陛下は、穏やかでありながら厳格な瞳をイチカへと向けられた。
「そしてイチカ・フォン・シモキタール。そなたの発想と行動力が、シモキタール家のみならず王国全域に新たなる風を吹き込んでいると聞く。『ルナ・ソレイユ』の功績も含め、今後の働きにも大いに期待しておるぞ」
「身に余るお言葉、光栄の極みにございます」
無事に陞爵の儀式が執り行われ、謁見の間からは大きな拍手が巻き起こった。
式を終えて王城の回廊へ出ると、ルキウスが深く胸を撫で下ろしながら、安堵の息を漏らした。
「ふぅ……無事に終わって良かった。緊張で心臓が止まるかと思ったよ」
「お父様、お見事な口上でしたわ。これで今日から私たちは『シモキタール子爵家』ですわね!」
「ああ。これもすべて、イチカが頑張ってくれたおかげだよ」
ルキウスと笑い合っていると、人混みの向こうから見知った顔――エオノーラ夫人やアルスター公爵閣下が笑みを浮かべて近づいてくるのが見えた。
新子爵家としての新たなる歩みと、王都での忙しい日々はまだまだ続いていきそうだ。




