パクリでない進化系デザート完成?
男爵邸の食堂で、出来立てのポンタワッカを頬張っていたイチカ。
その口の中で「もちもち・むにゅっ」とした独特の弾力が弾けた瞬間――
バチバチッと、苺香の脳内に激しい稲妻が走り抜けた。
(……待って。この配合、このもちもち食感の再現ができるってことは……『アレ』も作れちゃうんじゃない!?)
苺香のデータベースが一気に検索を始める。
苺香はポンタワッカの生地の配合に微調整を加え、粉類と水分のバランスを極限まで練り上げた。
そして、それを手のひらでちまちまと丸め、黒糖でじっくりと煮詰めて艶やかな黒い小さな玉をいくつも作り出した。
「ふふふ……長続きはしないかもしれないけれど、短期的には社会現象級の大流行を起こすはずよ……!」
苺香が完成させたのは、まさに前世で空前の大ブームを巻き起こした『タピオカもどき』であった。
「これなら、大人の見えない大きな力を心配する必要が全くないわっ! ドーナツはちょっとヒヤヒヤしたけれど、これは完全オリジナル(?)の進化系だからね!」
謎の達成感を漂わせながら意味不明な独り言を呟くイチカを、様子を見にきたセレナが不思議そうな目で見つめている。
イチカはさっそく、濃いめに淹れた紅茶にミルクとメープルシロップを合わせた特製ミルクティーを用意し、そこに出来立てのモチモチ玉を沈めた。
グラスの中で黒い玉がゆらゆらと揺れている。
期待に胸を膨らませ、グラスを傾けて一口飲んだイチカだったが――すぐに「……あ」と動きを止めた。
「肝心のアレがないっ……!!」
頭を抱えて叫ぶイチカに、セレナがパチパチと目を瞬かせた。
「イチカ様……? アレとは一体何のことですか?」
「ストローよ、ストロー! 太くて丈夫な管! タピオカミルクティーはね、ミルクティーと一緒にこのモチモチの玉をズズッと吸い上げることで初めて完成する飲み物なの! 普通に飲んだら下に玉が残っちゃうじゃない!」
苺香は頭を悩ませて厨房の中を見回した。
「ハスの茎や若竹があれば太さ的にも丁度いいんだけど……今は季節が違うし手に入らないのよね……」
季節外れの自然素材に頼れない現実に落ち込むイチカを見て、セレナが首をかしげながら素朴な疑問を口にした。
「あの……イチカ様。そんなに困るくらいでしたら、普通にスプーンですくって召し上がればいいのではないですか?」
「ダメよセレナ!」
苺香はビシッと指を立て、熱弁を振るった。
「これはね、ストローで『ズズッ』と吸い込んで、口の中でミルクティーとモチモチ食感が合体するからこそ至高なの! スプーンですくって食べたら、それはただの『タピオカ入りミルクティースープ』になっちゃうでしょう!? そこだけは絶対に妥協できないのよ!」
食への謎のこだわりと執念を爆発させるイチカに、セレナは「は、はあ……」と圧倒されるしかない。
グラスに入った美味しそうなタピオカミルクティー(仮)を見つめながら、苺香はう〜んと腕を組んだ。
「というわけで……これを新メニューとして披露するのは、ストロー問題が解決してからね!」
こうして、味は完璧でありながらも「太いストローがない」という物理的な壁にぶつかり、新たな課題を残したまま進化系デザートは一旦封印(?)されるのだった。




