インスパイア系デザート完成
イチカは厨房で腕を組みながら調理台の前で一人ニヤリと笑みを浮かべていた。
(新メニューと言っても、私――苺香の記憶を掘り起こせば、パクリ……げふん、インスパイア系デザートなんていくらでも出てくるのよね……)
日本の記憶という、異世界においては強力すぎる反則技を使う気は満々だ。厨房にある食材や器具を見回しながら、イチカの目がキラリと光る。
「今日の標的は……君だ!」
イチカがターゲットに選んだのは、前世で誰もが一度は食べたことがあるであろう、あの某大手チェーン店の輪っか状のお菓子――そう、『ドーナツ』だった。
さっそく調理に取りかかる。
前世の記憶を頼りに、まずは外はサクサク、中はしっとりとした伝統的なケーキ生地のドーナツを作成。
そしてもう一つは、粉類や豆腐に似た食材の配合を工夫し、あの反則級の「もっちり・むにゅっ」とした独特の食感を完全再現した生地を丸めて輪っか状に繋ぎ合わせた。
黄金色にカラリと揚がった二種類のドーナツを前に、イチカは満足そうに頷く。
「よしっ! 君たちの名前は……『ニューファッション』と『ポンタワッカ』だっ!」
自画自賛したくなるほどのインスパイア感満載な名付けを終え、王都の店舗『ルナ・ソレイユ』で提供するための新メニュー、ドーナツ二種がここに完成した。
「イチカ、厨房でさっきから妙に香ばしい良い匂いがしているが……何を作っているんだ?」
「お姉様! 甘くてすごーく幸せな匂いが館中に漂ってきましたよ!」
タイミングよく厨房に姿を現したのは、ルキウスとエリスの二人だった。
イチカは待ってましたとばかりに、出来立ての二皿をテーブルへと差し出す。
「ふふふ、お二人さん良いところに来ましたね。王都の『ルナ・ソレイユ』で出す予定の新デザートです! ぜひ味見してみてください」
「これは……輪っか状の揚げ菓子か?」
ルキウスが不思議そうに『ニューファッション』を手に取り、一口かじる。
ザクッと心地よい音が厨房に響き、バターと小麦の香ばしさが口いっぱいに広がった。
「ほう……! 表面はサクサクとして香ばしく、中はほどよくしっとりしている。甘さも上品で、これは紅茶にも酒にも合いそうだな。非常に美味い」
一方、お花のような形をした『ポンタワッカ』を手に取ったエリスは、一口食べた瞬間、目を丸くして声を上げた。
「んんっ~!? なにこれ、すごいですお姉様! もちもちしてて、噛むとむにゅって……! こんな食感のお菓子、食べたことありません!」
「でしょう? こっちのポンタワッカは食感が命なんですよ」
「サクサクと香ばしいニューファッションに、もっちり食感がクセになるポンタワッカ……甲乙つけがたいな。どちらも王都の貴族なら飛びつくはずだ」
「はい! 絶対に大人気になりますよ!」
二人の大絶賛と満面の笑みを受け、イチカは心の中でガッツポーズを決める。
(よしっ、味見の評価は上々! インスパイア系ドーナツで、王都の胃袋をしっかり掴んじゃうわよ!)
こうして自らの努力を全くしなかった二種のドーナツは、ルナ・ソレイユの新たな看板メニューとして大成功の予感を漂わせるのだった。




