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異世界のむつ市(最北端)へようこそ!  作者: 一条ひかり


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ハギムーンの特産品

夜会が明けた翌朝。イチカとセレナとレイモンドの三人は、案内役として同行するハギムーン家の執事に連れられ、港に隣接する大市場へと足を踏み入れていた。


水揚げされたばかりの海産物を叫ぶ威勢の良い声や湯気が混ざり合い、市場は圧倒的な熱気に満ちあふれている。


「すごい熱気ですね。ムーツに比べて本当に活気があって驚きました」


イチカが目を輝かせると、隣のレイモンドも苦笑交じりに頷いた。


「ああ。ムーツはまだまだ辺境の港町で、お世辞にも栄えているとは言えないからな」


「ですが、今日ここで良い素材を見つければ、迎賓館のメニュー幅が広がりますわ。さあ、探していきましょう!」


イチカが意気揚々と歩き出すと、レイモンドと執事もその後に続いた。


最初に立ち寄ったのは、大ぶりの牡蠣を扱う水産露店だ。


「いらっしゃい! ハギムーン名物の新鮮な牡蠣だよ!」


「とても立派ですね。ですが、生のままでは辺境のムーツまで運べません。

店主さん、サッと加熱してニンニクや香草とともに上質なオイルへ漬け込んで密閉する『オイル漬け』にしていただけますか?

日持ちもしますし、極上の保存食になりますわ」


「なっ……生で運べねえならオイル漬けだと!? 試してみるよ!」


「ええ。後ほどハギムーン侯爵家から注文が入るように手配しますので、指定された数量を納品してくださいね」


続いて向かったのは、深みのある芳醇な香りを漂わせる赤味噌の露店だ。


店頭にはこの土地伝統の熟成赤味噌が入った木樽がいくつも並んでいる。


「店主さん、とても良い香りの味噌ですね。この赤味噌は日持ちもしますし、樽詰めなら輸送中も傷みにくく安定して持ち帰れますわ。ぜひ仕入れさせてください。

……それと、そちらの脇にある『米ぬか』と『酒粕』ですが」


「ん? 酒粕と米ぬかかい?」


「ええ、こちらも味噌と一緒にハギムーン侯爵家からの発注分として定期納品していただけますか?」


「えっ、熟成味噌だけじゃなく、肥料くらいにしか使わねえ副産物まで!? 理由はよく分からんが、侯爵家の注文通りに用意すればいいんだな? 助かるよ!」


味噌の仕入れを決めつつ、用途は伏せたまま米ぬか・酒粕の納品も約束させ、さらに肉屋の軒先へ向かう。


そこには食用牛の『舌(タン)』が吊り下げられていた。


「店主さん、この牛タンを香草とともにしっかりと塩漬けにして熟成させ、樽に詰めて納品してください。こちらはハギムーン侯爵家からの注文分として加工・納品してくださいね」


「塩漬け熟成か……! 侯爵家からの注文量に合わせてしっかり樽詰めして納めるよ!」


最後に穀物露店で袋に入った『緑豆(枝豆の乾物)』を見つけたイチカは、「この乾物の状態のまま、ハギムーン侯爵家の注文量に応じて納品してください」と店主に伝えた。


(よし……! 牡蠣のオイル漬け、極上赤味噌、牛タンの塩漬け、美容原料になる米ぬか・酒粕、ずんだスイーツにする緑豆……完璧だわ! これで迎賓館のメニューが充実するわ!)


イチカは心の中でガッツポーズを決めた。


手腕を横で観察していた執事は、感嘆の吐息を漏らし恭しく礼をした。


「イチカ様……見慣れた素材がこれほどの価値を生み出すとは、見事でございます。さっそく屋敷へ戻り、旦那様へご報告いたしましょう」


市場での手配を終えた三人は、ハギムーン侯爵邸へと戻った。


執務室で二人を出迎えたハギムーン侯爵に対し、イチカは優雅に微笑み提案を切り出した。


「ハギムーン侯爵様。先ほど市場を巡り、牡蠣のオイル漬け、熟成赤味噌、加工した牛タン、米ぬかや酒粕、そして緑豆の定期納品の手配をしてまいりました」


「ほう……! だがイチカ殿、それをどのように運用するおつもりかな?」


「どれもハギムーンの素晴らしい特産品ですわ。つきましては、ハギムーン侯爵家から市場の各店舗へ必要量を定期発注していただき、ハギムーン商会を通じて買い取っていただきたいのです。それを、王都からムーツへと帰る私たちの『定期便の戻り便』に積載して出荷していただきたく存じます」


イチカの説明を聞いたハギムーン侯爵は、膝を打って感嘆の声をあげた。


「なるほど! 特産品を侯爵家として買い上げ、商会を経由して貴殿らの戻り便に乗せるわけだな! 空荷になりがちな復路を活かす見事な循環物流ではないか……! 素晴らしい提案だ、ぜひとも商会へ指示を出そう!」


侯爵は快諾した。無駄のない完璧なスキームが整っていく様子に、レイモンドも頼もしそうに笑いかけた。


「フッ、これでムーツ、王都、ハギムーンを結ぶ定期便は、往復ともに大きな利益を生むルートになったな。廃れていたムーツも一気に活気づくぞ」


「ええ、ハギムーン侯爵様、どうぞよろしくお願いいたします」


「うむ。任せておきなさい。我がハギムーン領の新たなる誇りとして、しっかりと手配させよう」


イチカ自らの足とアイデアで市場の価値を掘り起こし、侯爵を動かす――辺境ムーツの発展に向けた新たな流通ルートの確立が、鮮やかに決まったのだった。

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