ツンデレ令嬢のギャップ萌え
温泉迎賓館のサロンで優雅な食後のティータイムが続く中、イチカはある違和感を覚えていた。
ロザリア様が、先ほどからサロンの一角をチラチラと、実にわかりやすく視線で追っているのだ。
気のない素振りを装って会話を続けてはいるものの、その黄金色の瞳が吸い寄せられている先は隠しようもない。
視線の先にあるのは、ディスプレイ棚に飾られたミニチュアの動物人形たち――そう、
『なんちゃらバニア』であった。
棚にはしっかりと「非売品」のプレートが添えられている。
(ふふっ、興味津々なのが丸わかりで可愛すぎる……!)
苺香は心の中で笑いを噛み殺しながら、ごく自然な口調で問いかけた。
「ロザリア様、こちらのかわいくてちいさなお人形たちに何かご興味がおありですか?」
ハッと肩を揺らしたロザリアは、すぐさまツンと澄ました顔を作り、扇を優雅に揺らした。
「……べ、別にわたくし自身が興味を示しているわけではありませんわ。ただ、精巧なミニチュアで領地の世界観や暮らしを表現している試み自体は、少々面白いと思っただけですわ」
自分はあくまで客観的な評価をしているだけだと主張するロザリア。
しかし、彼女は小さく息をつくと、探るような視線をイチカに向けた。
「……ところでイチカ様。これは本当に、一切販売をしておりませんの?」
「はい。こちらは非売品となっております」
苺香がにっこりと答えた瞬間。
ロザリアの背景がドカンと暗転したかのように、その美しい顔立ちに目に見えてショックの色が広がった。
金髪の縦ロールすら心なしか萎れているように見える。
わかりやすすぎる落胆ぶりに、苺香は悶絶しそうになった。
(ダメだ、可愛すぎて耐えられない……! でも、あんまり焦らすのもかわいそうね)
苺香は小さく咳払いをして、優しく言葉を続けた。
「……ですが、どうしてもこの子たちを欲しいとおっしゃる方で、なおかつ、このちいさくてかわい人形たちを末永く大切にしてくださる方に限りましては……特別に特注でお作りすることにしておりますの」
次の瞬間、ロザリアの周囲にパァァッと花が咲いたかのように世界が明るくなった。
ぱっちりと開かれた瞳がキラキラと輝いている。
しかし、そこは高飛車な悪役令嬢(仮)。
自ら「欲しい」と口にするのはプライドが許さないらしく、背後に控えていた専属メイドへパッと振り向いた。
「……コホン! ねぇ、あなた。あなたの妹さんは、確かこういう可愛らしい小物が大好きでしたわよね?」
急に振られたメイドは、「えっ……?」と鳩が豆鉄砲を食ったような顔で固まった。
「は……はい? あ、妹は確かに可愛いものが好きですが――」
「まあ! ならば仕方がありませんわね。日頃の労をねぎらって、わたくしがあなたの妹に買って差し上げますわ!」
(妹ダシに使ったーーー!!)
どこまでも素直になれないツンデレぶりに苺香が心の中で大喜びしていると、あらかじめ用意していた“決めゼリフ”を投下した。
「ロザリア様。大変申し訳ないのですが……この子たちは本当に大切にしてくださる方のもとへお届けしたいので、ご本人の意思が確認できないプレゼント用の販売はお断りさせていただいておりますの」
「なっ……!?」
ロザリアが絶句したその瞬間、空気を察したメイドがすかさず一歩前に出た。
「あのっ! イチカ様! 実は私っ、私自身が可愛いものが大好きで、このかわいいお人形たちがどうしてもどうしても欲しいんですっ!!」
「まあ、そうなのですか!?」
「ええ! ですからロザリア様、どうか私に買ってくださりませ……!」
メイドの必死のナイスアシストに、ロザリアはどこか誇らしげに胸を張った。
「……ふふん、聞きまして? 本人がどうしても欲しいと申しておりますわ。そういうことなら仕方がありませんわね! わたくしが彼女に買って差し上げますわ!」
(ギャップ萌えをたっぷり堪能させていただいたから、もう許してあげようかしら!)
苺香は満面の笑みを浮かべ、深々と一礼した。
「かしこまりました。それでは、ロザリア様からの特注品として、心を込めてお作りさせていただきますわ」
こうして、ムーツ領が誇る『なんちゃらバニア』の記念すべき特注第一号の受注が決定したのだった。




