極上の癒やしとツンデレ
温泉迎賓館へ到着して早々、イチカをサロンへ呼び出したセシリア夫人とロザリア様。
そのため、二人はまだご自慢の温泉にすら足を浸していなかった。
旅の長距離移動による長旅の疲労も溜まっているはず――そう察したイチカは、にっこりと微笑みながらある提案を持ちかけた。
「お二方とも、温泉に入られる前に当館の『特別マッサージ』をお試しになりませんか? まだ試作段階で正式採用前のサービスなのですが……」
イチカが提案したのは、領内で採れたメープルシロップや数種類のハーブを絶妙に配合した特製オイルマッサージであった。
施術を担当するのは、温泉迎賓館のホスピタリティを支える、「シルバー部隊」の女性陣――すなわち熟練のお姉様方である。現在は互いに施術し合い、その技術を極限まで高め合っている段階だ。
「未完成のサービス」と正直に告げたイチカだったが、今や社交界で話題沸騰中の温泉迎賓館の最新施術を誰よりも早く体験できるとあって、二人は「まあ、ぜひ受けてみたいわ!」と快諾したのだった。
そして、施術室から漏れ聞こえてきたのは――。
「あぁ……んっ……なにこれ、凄まじく気持ちいい……っ」
「お母様、声が出ておりますわよ……あ、あひゃ!? そこは……んうぅっ!」
シルバー部隊のお姉様方の熟練の手技と甘く爽やかなオイルの香りに揉みほぐされ、二人はあっさりと天へと昇天。
その後の温泉と本格的なフィンランドサウナによって二度目の昇天を果たし、露天風呂から続くウッドデッキのベンチで、二人は揃って白い湯気を立てながら放心状態となっていた。
「……イチカ様。あなた、恐ろしい館を作ったものね……」
「わ、私の身体が……溶けてしまいそうですわ……」
とろけきった表情で呟く二人は、すっかりイチカに胃袋ならぬ全身の疲れを掴まれてしまっていた。
すっかり上機嫌になったセシリア夫人は、「ぜひイチカ様もご一緒に」と夕食の同席を求め、イチカも快くこれに応じた。
極上の夕食が終わり、食後のデザートを楽しんだ後、セシリア夫人がうっとりとした表情で溜め息をついた。
「本当に素晴らしいおもてなしだったわ。
あのオイルマッサージはもちろんのこと、洗い場にあったシャンプーやリンス、それにあのしっとりとしたモイスト石鹸……あれは一体なぁに? 肌が驚くほどツヤツヤになりましたのよ」
「気に入っていただけて光栄です。お気に召したようでしたら、お帰りの際に手土産として進呈いたしますわ」
イチカが笑顔で即答すると、ここで沈黙を守っていたロザリアのツンデレが発動した。
金髪の縦ロールを揺らし、扇をパッと広げてイチカを指さす。
「ちょっと待ちなさいな! 温泉迎賓館での極上のおもてなしに、手土産まで……、施しを受けるだけなんて、タキア伯爵家のプライドが許しませんわ! 何か欲しいものはないかしら? この私に遠慮なく言いなさいな!」
(ツンデレタイムキター!)
苺香は脳内でガッツポーズを決めつつ、待ってましたと言わんばかりにリクエストを口にした。
「ではお言葉に甘えまして……タキア領の特産である『タキア地鶏』のつがい(番)と、○○を分けていただけないでしょうか?」
美味しい鶏肉や卵を安定して得るための番に、ムーツには存在しない○○のおねだりに、ロザリアはフッと不敵な笑みを浮かべた。
「ふふん、そんなものでよくって? お安い御用ですわ! 領地に帰ったらすぐに手配して送らせますから、あなた達は首を長くして飼育小屋と保管場所の準備でもしておくことですわね!」
「ありがとうございます、ロザリア様!」
高飛車な態度を取りつつも、こちらの要望を完璧に叶えてくれる頼もしい悪役令嬢(仮)。
こうしてムーツ領に、新たな食材の種とタキアの買い出しでは買えなかった○○がもたらされることが決まったのだった。




