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異世界のむつ市(最北端)へようこそ!  作者: 一条ひかり


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悪役令嬢(仮)のツンデレ

温泉迎賓館の落ち着いたサロンへ入ると、そこにいたのは際立った雰囲気を纏う二人の女性だった。


ひとりは、ピンク系の淡い色のドレスに身を包んだ美魔女――タキア伯爵夫人と見られる淑女。


そしてもうひとりは、鮮やかなブルー系のドレスを纏い、キリッとした鋭い目付きの女性だった。


何よりイチカの目を奪ったのは、その令嬢の姿である。眩いばかりの金髪を完璧な縦ロールに巻き上げた彼女は、どこからどう見ても高飛車な「悪役令嬢」そのものの風貌だった。


(悪役令嬢キター! これは絶対、私と同じ『転生者』って流れしかないじゃないの……!)


脳内でひとりテンションを爆上げさせながらも、苺香は表面上、至極冷静に深々と一礼した。


「タキア伯爵夫人セシリア様、ならびにロザリア様。

この度は遠路はるばるムーツ領までお越しいただき、心より歓迎申し上げます」


男爵令嬢としての隙のない完璧な挨拶に、美魔女であるセシリア夫人はふわりと微笑んだ。


「まあ、ご丁寧なご挨拶をありがとう。ずっとあなたにお会いしたかったのよ、イチカ様」


穏やかな母の挨拶に続いたのは、縦ロールの令嬢・ロザリアだった。


彼女は扇をパチンと閉じると、イチカを上から下まで見やるように視線を走らせた。


「あなた、先日うちの領地に来ていたらしいわね? 伯爵家に挨拶にも来ないなんて、一体どういうおつもりかしら?」


高圧的な態度に、完璧な高飛車ボイス。


まさに悪役令嬢として100点満点の完璧な発言である。


(間違いない……! 絶対に悪役令嬢の転生者よ!)


苺香の確信は深まった。


そこで彼女は、相手が同郷(転生者)かどうかを確かめるため、“合言葉”を使った質問を投げかけた。


「ロザリア様。不躾ですがひとつお聞きしても?……私はココアに乗っておりしたが、ロザリア様は何に乗っておられましたか?」


一瞬の静寂。


ロザリアは美貌をほんの少し歪め、心底奇妙なものを見るような目でイチカを見つめた。


「……ココア?……乗る……? あなた、一体なにをおっしゃっているのかしら?」


(やばっ! 転生者じゃなかった……!!)


「軽自動車のココア」のネタが全く通じなかったことで、苺香は己のフライングを察知し、冷や汗を流しながらすぐさま頭を回転させた。


「あ、失礼いたしました! 先日ブルーフォレスト領を訪れた際、若い女性たちがそのような言葉を使っているのを耳にしまして……何か最新の流行り言葉かと勘違いし、意味も分からず使ってしまいました」


即座にでっち上げた苦しい言い訳に、ロザリアは呆れたように小さく息をつき、姿勢を正した。


「はぁ……ムーツは辺境ですから、流行に疎いのは多少仕方がありませんけれど。意味も理解せずに安易に言葉を使うものではありませんわよ」


お叱りの言葉が飛んできたと思いきや、ロザリアはどこか誇らしげに胸を張り、言葉を続けた。


「……ですがまぁ、どうしてもというなら、王都や中央での最新の流行について、この私が教えてあげてもよくってよ?」


(悪役令嬢のツンデレキターー!!)


苺香は脳内でふたたび大興奮していた。


見た目も発言も悪役令嬢そのものなのに、面倒見がよくて根は素直なツンデレ属性。


あまりのギャップと可愛らしさに、苺香の心はすっかり鷲掴みにされていたのだった。


その後、支配人のアルフレッドから支配人権限を一時的に引き継いだイチカ。


こうして、タキア伯爵夫人セシリアと、自称・流行の指導者となった悪役令嬢ロザリアへの特別なおもてなしが始まるのだった。

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