サプライズの全貌と最高の贈り物
誕生日当日。
男爵邸のダイニングルームに入ったイチカは、思わず足を止めた。
いつもの日常の食事風景とは違い、テーブルの上にはいつもより多くの、華やかな料理の数々が準備されていたのだ。
「あれ? 今日は他に誰か来客の予定でもあるの、セレナ?」
隣にいたセレナに尋ねてみたが、彼女はなぜかふふっと意味深な笑みを浮かべるだけで、
「さあ、どうでしょうね?」
とはぐらかされてしまい、そのまま席を外されてしまった。
首をかしげていると、今度はタイミング良く、男爵邸の扉が開いてルーカスがやってきた。
「お、イチカ。ちょうどいいところに」
「ルーカスさん? こんな時間にここに何の用ですか?」
怪しんで問い詰めるイチカだったが、ルーカスもまた「いや、ちょっと用事があってな」と目を泳がせながら、明確な理由を言わずにはぐらかしてしまう。
(なんなのよ、みんなして……)
そうこうしているうちに、ルキウスとロベルトも連れ立ってやってきた。
「お、これで全員揃ったな」
ルキウスが満足げに頷いたが、ここでイチカは違和感に気づいた。
「ちょっと待って、エリスの姿が見えないじゃない。一体どこに行ってるのよ?」
しかし質問に答える間もなく、
「まあ、とにかく席に着きなさい」
とルキウスたちに促され、イチカは渋々自分の席へと腰を下ろした。
全員が着席した直後――ガチャリ、とダイニングルームの扉が重々しく開いた。
そこに立っていたのは、他でもない妹のエリスだった。
しかも、その両脇にはセレナと、料理長のレイブンが控えている。
エリスはその小さな体をピンと張り、かつてノースシーロード王国との会食でイチカが見せた気高いヘッドオブサービスさながらの堂々とした振る舞いで、高らかに宣言した。
「本日――! 我が最愛のお姉様、イチカの生誕を祝し、盛大なるお誕生日会の開催を宣言しますわ!」
ポカンと口を開けたまま固まっているイチカの前で、男爵邸の流儀に則り、料理が一度に全てテーブルへと並べられていく。
その中の一皿だけ、銀色の立派な「蓋」が被せられた特別な皿があった。
セレナとレイブンもそれぞれの席につき、準備が整うと、エリスは得意満面な笑みを浮かべてその皿を指し示した。
「さあ、お姉様。これは私と、みんなで、お姉様のために秘密裏に特別に準備した一品です。……どうぞ、お開けになって?」
「えっ……?」
戸惑いながらもイチカがその蓋に手をかけ、ゆっくりを持ち上げた瞬間――。
そこに現れたのは、見慣れた異世界の料理ではなく、紛うことなき「現代のそれ」だった。
こんがりと焼き上げられた丸いパンに、ワイルドボアの分厚いパティ、シャキシャキのレタス、そしてとろりと溢れる甘い特製ソース。
目の前にあるのは、現代で見たものと比べても一切遜色のない、完璧なハンバーガーだった。
「これ……って……」
言葉を失ったイチカは、震える手でそのハンバーガーを持ち上げ、そっとかぶりついた。
口いっぱいに広がる香ばしい肉の旨味、絶妙なスパイスと玉ねぎの食感、そしてあの懐かしいソースの味わい。
異世界の片隅で再現された「現代の味」は、あまりにも完成度が高かった。
「――っ!」
美味しい、という言葉よりも先に、熱いものがこみ上げてきた。
この世界に来てから、必死に知識を絞り出し、生きていくために走り続けてきた。
いつも誰かをもてなす側だった自分が、まさかこんな心のこもった、誰も見たことのないサプライズでお祝いされるなんて。
目から大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちるのを、イチカはもう止めることができなかった。
「おい、イチカ、泣くほど美味いのか?」
ルーカスが呆れたような、しかしどこか優しげな声をかけ、エリスは「大成功ね!」と誇らしげに胸を張る。
レイブンもロベルトも、そしてルキウスやセレナも、温かい笑みを浮かべてイチカを見守っていた。
ハンバーガーのあとは、甘いデザートが振る舞われ、家族や仲間たちの笑顔に包まれた朗らかな時間は穏やかに過ぎていった。
こうして、イチカにとって忘れられない最高の一日は、温かな余韻を残して幕を閉じたのだった。




