男爵領のトップシークレット
そして迎えた、イチカの誕生日当日――。
男爵邸の厨房では、二日連続の徹夜という過酷なミッションを完遂した料理長レイブンが、目の下に濃いクマを作りながらも、充実感に満ちた表情で最後の仕上げを行っていた。
「くっ……これほどの難問、王都の料理人時代でも経験したことがありませんでしたが……ついに形にしました!」
レイブンの目の前には、見事なまでに現代のハンバーガーを再現した一皿が鎮座している。
肝心のパティは、ワイルドボア肉のミンチを使用。
最初はポロポロと崩れて一体化させるのに激しく苦労したものの、試行錯誤の末につなぎとして「パン粉と牛乳」を使用する画期的な手法にたどり着いた。
さらに、ミンチには細かく刻んだ玉ねぎをしっかりと混ぜ込み、肉の旨味だけでなく絶妙な食感も楽しめるように工夫されている。
焼き上げた香ばしいパティの上には、シャキシャキのレタスと瑞々しいトマト。
そしてソースには、デミグラスソースをベースにより甘く、ドロドロとした濃厚さに仕上げた自家製ソースをたっぷりと絡めた。
伝聞の断片情報と料理人の執念が奇跡を呼び、今、この異世界の地に限りなく本物に近いハンバーガーが誕生したのだった。
一方、その裏で、もう一つの重大なミッション――「イチカの目を欺くための帳簿の辻褄合わせ」と「アリバイ工作」も完璧に遂行されていた。
経理のロベルトは、厨房の食材が一時的にズレることを隠し通すため、そしてそもそもエリス主導で盛大なお姉様の誕生日会を行うという計画の全貌を、あらかじめ領主ルキウスにこっそり報告していた。
事情を察したルキウスは、快く自分のポケットマネーから資金を出し、秘密裏に必要な材料を買い揃えさせたため、男爵邸の公式帳簿には一切の不自然な歪みが生じないよう完璧に処理されていたのである。
さらに、肝心の主役であるイチカをここへ近づけないための対策も万全だった。
「今日と明日は、泊まりで迎賓館の設備チェックと視察の特命です!」
という名目のもと、セレナがイチカを連れ出し、見事に二日連続での外出をさせていたのだ。
本人は「なんでこんなに連日、迎賓館のチェックなのよ……?」と首をかしげつつも、すっかりその気になって外を回っている。
材料の調達、極秘のレシピ開発、完璧な帳簿の隠蔽、そして主役の完全な隔離。
すべてのピースが出揃い、あとは主役の帰りを待つのみとなった。
エリスが描いた一大サプライズ計画は、いよいよ本番の幕を開けようとしていた。




