赤く輝く宝物と、逆転のPR戦略
温めた暖炉の前で、焼き立てのパンと、なけなしのイチゴジャムを添えた温かいお茶を差し出す。
カトリーナは勧められるままパンにジャムをたっぷりと塗り、口へと運んだ。
次の瞬間――彼女の翡翠色の瞳が、落雷にでも打たれたかのように見開かれた。
「……ッ! なに、これ……!?」
ふんわりと解ける焼き立てパンの香ばしさ。そして、甘酸っぱく濃厚なイチゴの風味が弾け、口いっぱいに贅沢な余韻が広がる。
「柔らかいパンも驚きですが……このイチゴジャム、信じられないほど上質だわ! 砂糖のしつこい甘さではなく、果実そのもののフレッシュな旨味が凝縮されている……!」
「ふふ、お気に召していただけて良かったですわ」
カトリーナは興奮で頬を紅潮させ、身を乗り出してきた。
「イチカ様! これを、このパンとジャムを王都で売り出しましょう! 王都に『ムーツ特製パンサロン』を出店すれば、貴族たちが押し寄せて大行列ができます!」
かつて大手商会を率いた手腕。その目には確かな勝機が宿っていた。
だが、私はあえて静かに首を振った。
「カトリーナ様。アイデアは素晴らしいですが……『運搬と保存の壁』はどうされますか?」
「え……?」
「生のパンや生の酵母は、王都へ運ぶ数日間に味が落ち、腐敗してしまいますわ。それに、このイチゴジャムも私が手元にあったわずかな果実で作った一点もの。量産できる砂糖もイチゴも、今のムーツ領にはありません」
ハッと息をのむカトリーナ。
商売の現実に直面し、せっかく芽生えた希望の光が翳りそうになった。
「そんな……せっかくの最高の商品なのに、指をくわえて諦めるしかないというの……?」
「いいえ、諦める必要なんてありませんわ」
私は不敵に微笑み、テーブルの上に一冊のノートを開いた。
「『パン屋』を運ぶのが無理なら、長期保存と運搬ができる『最高級のブランドジャム』を王都へ輸出すればいいんです」
「ブランドジャム……?」
「ええ。冬が明ける直前、この地のカエデの木から採れる『カエデの樹液』を煮詰めて、高級な天然甘味料を作ります。砂糖が貴重な王都で、これは大きな武器になりますわ」
前世のPRプランナーとしての思考が、高速で戦略を組み立てていく。
「そして春になったら、私が育てる『夏秋イチゴ』を収穫し、メープルと組み合わせた『砂糖不使用・完全オーガニックの最高級メープルイチゴジャム』を開発するんです」
「砂糖不使用の、メープルイチゴジャム……!」
「はい。長期保存ができる瓶詰めジャムなら、王都への運搬も完璧です。『最北端の極寒の地でしか作れない、美容と健康に良い奇跡のジャム』として王都の貴族や富裕層へアピール(PR)すれば……裏切り者たちの安い砂糖ジャムなんて、誰も見向きもしなくなりますわ」
カトリーナはポカンと口を開けて私を見つめていたが、やがて全身をゾクゾクとした歓喜の震えが襲った。
単に商品を売るのではない。物語と価値を付加して爆発的なヒットを生む「PR戦略」。
「素晴らしい……! 素晴らしいわ、イチカ様……! 『最北端の奇跡』として売り出せば、王都の流行を完全に支配できる!」
カトリーナは私の手を強く握りしめた。
「私を、あなたの『販売代理人』にしてください! 春までの間、私は王都で流通ルートを整え、ジャムを入れる最高のガラス瓶を手配して見せます!」
「頼もしいわ、カトリーナ様。利益は折半、五対五で行きましょう。王都の鼻持ちならない裏切り者たちを、私たちの商品でギャフンと言わせてやりましょうね」
「ええ、喜んで……!」
追放された元・令嬢と、身内に裏切られた凄腕の女商人。
春の訪れとともに始動する「特製メープルイチゴジャム計画」に向け、最強の同盟がここに結ばれたのだった。




