続・一攫千金?
リバーシでの商売が失敗に終わったからといって、苺香の野望がしぼむことはなかった。
(リバーシがダメなら、次は「コレクション性」と「愛らしさ」で勝負よ……!)
彼女が次に目をつけたのは、かつて別の世界(どこかのシュールで可愛いマスコットたちが暮らす世界)で目撃した、大人気ドールハウスのパクリ――いや、インスパイア系玩具である。
例の木工職人のもとへ再び足繁く通い、無理を言って作ってもらったのが、小さな木彫りの動物人形と、それらが暮らすミニチュアのハウスだった。
職人の手によって一つひとつ丁寧に彫り上げられ、可愛らしく色付けされた小さな人形たち。
「名付けて……『なんちゃらバニア』!」
完璧な仕上がりに自信を深めたイチカは、再びブルーフォレスト伯爵の執務室へと突撃した。
机の上に並べられた小さな木彫りの家と、愛らしい動物たちのミニチュア。
イチカは胸を張って、キラキラと輝く瞳で伯爵にアピールする。
「伯爵様! 見てください、この圧倒的な可愛さを! 小さな家、そして細部までこだわり抜いた木彫りの人形たち……。
どうですか……なんかちいさくてかわいくないですか!?」
自信満々のプレゼンを受け、ブルーフォレスト伯爵は腕を組んだまま、じっと机の上のミニチュアを凝視した。
数秒の沈黙の後、伯爵はひょいと小さなクマの人形をつまみ上げ、しみじみと言った。
「ふむ……確かに、造形は非常に細かいな。温かみのある手触りといい、子供や女性ウケしそうな愛らしさは認める。これを使ったごっこ遊びの需要も、分からなくはない」
(おっ、いける……!)
苺香が心の中でガッツポーズをしたその瞬間、伯爵は鋭い視線をイチカに向け、現実的なビジネスマンとしての顔を覗かせた。
「だがな、イチカ嬢。これ、一つひとつ職人の手彫りと手塗りで作らせたのだろう?」
「は、はい! うちの自慢の職人が、魂を込めて……」
「ならば問題はコストだ。これほどのクオリティを維持しようと思えば、製作に膨大な手間と時間がかかるはずだ。いざ商品として売り出すとなれば、販売価格は相当な高額にならざるを得ないぞ」
「…………え?」
苺香の動きが、ぴたりと止まった。
「素材の木材費、職人の技術料、そして彩色にかかる人件費……。量産化の仕組みもなく、ただ職人の手作りに頼ったところで、一般の庶民が気軽に買える値段には到底ならない。逆に、富裕層をターゲットにするには、ハウスの種類や服の着せ替えなどのバリエーションが圧倒的に不足している」
伯爵の冷静かつ至極もっともな経営分析は、苺香の脳天に雷のように直撃した。
――コスト、だと?
「なんかちいさくてかわいい」という言葉の持つ便乗パワーだけで突っ走っていた苺香は、原価計算や量産化の壁など微塵も考えていなかったのである。
手作りゆえにめちゃくちゃ原価が高くなり、薄利多売どころか大赤字になる未来が鮮明に脳裏をよぎった。
「あ……れ……?」
青ざめた顔で冷や汗を流す苺香を前に、伯爵はやれやれと首を横に振る。
「熱意とアイデアは買うが、商売は勢いだけでは成り立たんよ。もう少し現実的な原価と販路を計算してから出直したまえ」
「……はい……出直してきます……」
魂の抜けた人形のように、すごすごと伯爵の執務室から引き下がる苺香。
一攫千金の夢は、またしても冷徹な経済の現実の前に儚く散り去るのであった。




