一攫千金?
異世界の定番と言えば、一体なんだろうか。
マヨネーズか、醤油か、それとも現代知識チートによる商売繁盛か。
――いや、違う。子供から大人まで夢中にさせ、世界を熱狂の渦に巻き込む玩具の王様、リバーシである。
「よし、これを広めればウハウハ間違いなしね……!」
苺香はムーツ領内にある木材加工の職人のもとへと足を運び、頼み込んで専用の盤と駒を製作してもらった。
黒と白に塗り分けられた木製の盤と、綺麗に切り揃えられた木の駒。
完璧な出来栄えに、苺香の胸は期待と野望で高鳴っていた。
これを独占販売すれば、領内の税収も自分の懐も一気に潤うはず。
そう確信した苺香は、さっそくこれを手土産にブルーフォレスト伯爵のもとへ馳せ参じた。
「伯爵様! これはですね、頭脳と心理戦が試される画期的なボードゲームなのです。世界を揺るがす大ヒット商品になりますよ!」
キラキラと目を輝かせるイチカから、ゲーム盤を受け取るブルーフォレスト伯爵。
周囲の家臣たちも固唾を呑んで見守る中、伯爵は実際に駒を挟み、何度かルールを確かめてみた。
――フッ。
伯爵は静かに駒を置き、鼻で笑うように息を吐いた。
「ふむ……まあまあ面白いな」
「……えっ?」
手ごたえのなすぎる反応に、イチカは思わず間抜けな声を漏らした。
もっとこう、「なんだこれは! 天才の仕業か!」と椅子から転げ落ちるほどの驚嘆と感動を期待していたのだが、伯爵の態度は拍子抜けするほどに冷静だった。
「いや、確かに暇つぶしにはなるが……。我が領の職人たちも似たような頭脳遊戯や木製の立体パズルをいくつか作っておるぞ。そもそも、ここには他にも色々な玩具がある。そこまで珍しいものというわけでもないな」
「そ、そんな……! 白と黒がひっくり返るんですよ!?」
「ルールは単純で悪くないが、我が領の貴族の間では、もっと複雑な立体迷宮パズルや、職人が趣向を凝らした高度な木工ボードゲームが流行っている。それに比べると、いささか素朴すぎるか」
伯爵は「悪くはないが、商売の目玉にするにはパンチが弱いな」
と、つれない言葉を付け加えた。
苺香の描いていた「リバーシで大儲けし、領地経営の資金を一気に稼ぎ出す」という華々しい一攫千金の夢は、こうして音を立てて崩れ去ったのだった。
(……甘かった、甘すぎたわ……!)
机の上のゲーム盤を見つめながら、苺香は遠い目をして頭を抱えるのであった。




