二つの記憶と今の私
その後、イチカはふと自分自身の内面について思いを馳せてみた。
私は、いったい誰なのだろう。
名前はイチカ・フォン・シモキタール。幼少期からの記憶もしっかりとあり、間違いなく私はイチカだ。
だが同時に、私は野原苺香でもある。幼少期は群馬のイチゴ農家の娘として生き、東京でPRプランナーとして働いていた記憶もある。
体こそ異世界のイチカそのものだが、野原苺香としてのこれまでの記憶も鮮明に残っている。
不思議と、イチカと苺香の思考が衝突して混乱するようなことはなかった。
お互いが反発し合うでもなく、どちらも紛れもない「私」として自然に溶け合っている。
この世界が、苺香の感覚からすればいわゆる「異世界」なのか、それとも次元の違う「パラレルワールド」なのか、今の自分にはよくわからない。
(……それに、野原苺香としての元の体は、今どうなっているんだろう?)
ふとそんな疑問が頭をよぎるが、考えてみたところで答えが出るわけがない。
日本での肉体がどうなっていようと、今の自分に確かめようなどないのだから。
「……考えても、仕方ないか」
小さく息をつき、イチカは雑念を振り払うように首を横に振った。
今ここにある命を感じ、目の前にある現実をしっかりと見据える。思い悩むよりも、まずは今のこの時を全力で生き抜こう。
胸の奥でそう静かに決心したイチカの瞳に、確かな光が宿っていた。




