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深夜二時のナースコール

約5分で読める短編ホラーです。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。



「401号室からナースコールです。」


深夜二時。


総合病院で働く看護師・美咲は、小さくため息をついた。


401号室は、昨日から空室だ。


昼間、身寄りのない老人が息を引き取り、夕方には部屋も片付けられている。


「また誤作動かな。」


ナースステーションのモニターには、確かに『401』の表示が点滅している。


受話器を取る。


「401号室ですか?」


ザーッという雑音だけが返ってきた。


「失礼します。」


応答はない。


機械の故障だろうと思い、美咲は懐中電灯を持って病室へ向かった。


廊下は静まり返っている。


患者たちの寝息と心電図の電子音だけが、夜の病院に響いていた。


401号室の前へ着く。


ネームプレートは外され、室内は真っ暗だ。


扉を開ける。


「失礼します。」


誰もいない。


ベッドも整えられ、カーテンも開いたまま。


異常はない。


「やっぱり故障か。」


そう呟いた瞬間。


ピンポーン。


部屋のナースコールが鳴った。


美咲は凍りついた。


目の前には誰もいない。


それなのに、枕元の呼び出しボタンだけが、ゆっくり赤く点滅している。


気味が悪くなり、彼女はボタンの配線を確認した。


コードはベッドの横で切断されていた。


押せるはずがない。


その時だった。


背後で車椅子が軋む音がした。


ギィ……


振り返る。


誰もいない。


だが廊下には、濡れたタイヤ跡だけが一直線に続いている。


まるで今、誰かが通ったばかりのようだった。


美咲は急いでナースステーションへ戻った。


事情を話すと、夜勤歴三十年の主任看護師は顔色を変えた。


「401には一人で行っちゃ駄目。」


「え?」


「昔ね、あの部屋で患者さんを取り違えた事故があったの。」


まだ電子カルテもない時代。


同じ名字の患者を確認せず、薬を投与してしまった。


亡くなったのは、本来退院予定だった女性。


担当していた若い看護師は責任を苦に病院の屋上から飛び降りたという。


「その日からなの。」


主任は小さな声で続けた。


「深夜二時になると、401からナースコールが鳴るの。」


美咲は笑えなかった。


その時。


ピンポーン。


また401。


今度は三回。


ピンポーン。


ピンポーン。


ステーション全員がモニターを見る。


誰も動かない。


主任だけが受話器を取り、静かに話しかけた。


「今日は大丈夫です。間違えません。」


すると呼び出しは止まった。


「……今ので終わりですか?」


美咲が尋ねる。


主任は首を横に振った。


「今日はね。」


翌週。


401号室には新しい患者が入院した。


手術を控えた若い女性だった。


深夜二時。


またナースコールが鳴る。


今度は患者が怯えた表情で震えていた。


「さっき……白い服の看護師さんが立ってました。」


「夜中だから夢を見たんでしょう。」


そう言いかけた美咲は、言葉を失った。


患者は続けた。


「あの人、『間違えないでね』って笑ってました。」


笑っていた。


そう言ったはずなのに。


患者が描いた看護師の表情は、口だけが裂けるように吊り上がり、目には涙が流れていた。


美咲は背筋が冷たくなるのを感じた。


翌朝。


夜勤記録を書こうとカルテを開くと、一枚だけ見覚えのない古い紙が挟まっていた。


黄ばんだ事故報告書。


担当看護師の署名欄には、震える文字でこう書かれていた。


「次は、あなたが間違えないで。」


美咲は慌てて主任を呼んだ。


しかし主任は、不思議そうな顔をする。


「何のこと?」


事故報告書は、どこにもなかった。


その日から、美咲は夜勤のたびに401号室の前を通る。


そして毎回、誰もいない病室の中から、小さな声が聞こえる。


「……まだ、間違えてない?」

読んでいただき、ありがとうございました。

楽しんでいただけたら、感想や評価をいただけると今後の励みになります。

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