4番目のノック
約5分で読める短編ホラーです。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
大学を卒業して地元へ戻った僕は、祖父の家を片付けることになった。
古い平屋は山の麓にあり、昼間でも薄暗い。押し入れの奥から埃だらけの木箱を見つけたとき、中には古びた日記が一冊だけ入っていた。
最初のページには、祖父の字でこう書かれていた。
「夜中に四回ノックが聞こえても、絶対に返事をするな。」
子どもを怖がらせる作り話だろう。そう思い、僕は笑って日記を閉じた。
その夜は祖父の家に泊まることにした。
午前二時過ぎ。
――コン。
目が覚めた。
風で枝でも当たったのだろう。
――コン。
二回目。
窓ではない。玄関の方から聞こえる。
――コン。
三回目。
妙に規則正しい音だった。
そこで日記の言葉を思い出した。
「四回ノックが聞こえても、返事をするな。」
なんだか気味が悪くなり、布団を頭までかぶる。
静かになった。
しばらく待っても四回目は来ない。
安心して息を吐いた、その瞬間だった。
コン。
四回目。
反射的に僕は、
「……はい?」
と返事をしてしまった。
家中が静まり返る。
返事をしたことを後悔したが、何も起こらない。
拍子抜けして時計を見ると、午前二時十五分。
そのまま眠ってしまった。
翌朝、玄関を開けると土の上に裸足の足跡があった。
一人分ではない。
何十人もの足跡が玄関の前まで来ていて、そこで消えている。
帰った跡は一つもなかった。
気味が悪くなり、近所の古い神社へ向かうと、宮司が僕の顔を見るなり青ざめた。
「君……返事をしたね。」
「どうして分かるんですか?」
「肩を見なさい。」
スマホで自分の背中を映す。
右肩の上に、小さな子どもの手形が黒く浮かんでいた。
「一回返事をすると、一人ついて来る。」
「一人?」
「毎晩四回ノックがある。そのたび返事をすれば、また一人。」
「返事をしなければ?」
「その夜は増えない。」
僕は笑い飛ばそうとした。
そんな話があるものか。
その夜、自宅へ戻っても午前二時十五分になると、
――コン。
玄関が鳴った。
耳を塞ぐ。
――コン。
――コン。
四回目。
無視した。
朝になると手形は増えていなかった。
これで終わりだ。
そう思った。
三日後、仕事中に宅配便が来た。
配達員がドアを四回叩く。
コン、コン、コン、コン。
「はい。」
無意識だった。
その晩、肩には二つ目の手形が浮かんでいた。
それ以来、四回続けて鳴る音が恐怖になった。
玄関。
窓。
会社の会議室。
病院の診察室。
ホテル。
どこにいても、四回続けてノックされることがある。
そのたびに返事を我慢する。
だが人は、一生のうち一度も四回のノックに返事をしないで生きることなどできるのだろうか。
先日、祖父の日記の最後のページを開いた。
そこには震える字で、たった一行だけ書かれていた。
「肩の手形が十になった夜、ノックは外からではなく、家の中から聞こえる。」
昨夜、九つ目の手形が現れた。
そして今、この文章を書いている僕の部屋の押し入れから、
コン。
読んでいただき、ありがとうございました。
楽しんでいただけたら、感想や評価をいただけると今後の励みになります。




