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焼け残った記憶

約5分で読める短編ホラーです。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。



消防車のサイレンで目が覚めた。


窓を開けると、向かいの古いアパートから黒い煙が上がっていた。


「火事だ……」


炎は二階の一室を包んでいた。


野次馬の中に、近所でよく見かける老人がいた。


その老人は、なぜか僕を見ると小さく笑った。


「……大きくなったな」


「え?」


聞き返すと、老人は何も言わず、焼け落ちていく部屋を見つめていた。


「あの部屋、誰か住んでたっけ?」


隣の女性に聞くと、彼女は首を振った。


「空き部屋よ。半年くらい前から誰も住んでないはず」


老人だけが、ぽつりと言った。


「そうだな。ずっと空き部屋だった」


その言い方が妙に引っかかった。


翌朝、僕は焼け跡を見た。


二階の部屋はほとんど真っ黒だった。


ただ一つ、窓際の壁だけが白く残っている。


そこには、子供が描いたような家の絵があった。


家の前には、四人の人間。


父親、母親、子供。


そして、少し離れたところに老人が描かれていた。


絵の裏には、焦げた紙が一枚挟まっていた。


『家族四人』


その文字を見た瞬間、頭の奥が痛んだ。


その日の夜。


午前二時十三分。


スマホに写真が届いた。


火事の現場だった。


写真には僕が写っている。


そして、僕の隣には――あの老人が立っていた。


「……いつ撮った?」


二枚目。


僕の部屋。


眠っている僕の背後に、老人が立っている。


三枚目には、玄関。


その老人が、ドアの外からこちらを見ていた。


写真の隅に文字がある。


『思い出せ』


焦げた匂いがした。


すると、記憶の底から声が聞こえた。


――お父さん、早く逃げて。


――お母さんがまだ中にいるよ。


そして、もう一つ。


老人の声。


『火を消すな。全部、燃やせ』


僕は突然、思い出した。


十五年前。


このアパートで火事があった。


僕は両親と妹と、四人で暮らしていた。


火事から助かったのは、僕だけだった。


……いや。


違う。


もう一人、助かった人間がいた。


父だ。


あの日、父は家族を逃がさず、家に火を放った。


理由は、借金だった。


保険金を受け取るためだった。


僕はその事実を知っていた。


だから父は、僕の記憶を隠すために――。


ドアの向こうで、老人が笑った。


「やっと思い出したか」


僕は震えながらドアを開けた。


そこには誰もいない。


ただ廊下の床に、古い写真が一枚落ちていた。


家族四人の写真。


父、母、妹。


そして――幼い僕。


写真の裏には日付が書かれていた。


火事の翌日。


僕は息を呑んだ。


父は、その写真の中にいた。


けれど写真の端には、もう一人。


焼け焦げた顔の老人が写っている。


僕は知っていた。


あの老人は父ではない。


父に殺された――


僕自身だった。

読んでいただき、ありがとうございました。

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