推しのファンサ
約5分で読める短編ホラーです。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
私は、推しのためなら何でもできる。
そう思っていた。
毎朝、起きると最初に推しの公式アカウントを確認する。新しい写真が投稿されていれば保存し、グッズの発売日には仕事を休んで並ぶ。
部屋にはアクリルスタンド、缶バッジ、ポスター。スマホの待ち受けもロック画面も推し。
いわゆる、オタ活というやつだ。
ある日、フリマアプリで見つけた。
『非売品 直筆サイン入りチェキ』
推しがまだ無名だった頃のものらしい。
値段は少し高かったが、迷わず購入した。
届いたチェキを見て、私は息をのんだ。
推しが笑顔で写っている。
そして、その隣には誰もいない。
なのに、チェキの端に小さな文字が書かれていた。
『いつも見てるよ』
直筆サインとは別の字だった。
「……怖っ」
そう思いながらも、私は笑った。
きっと前の持ち主が書いたのだろう。
その夜、チェキを推しのアクリルスタンドの横に飾った。
翌朝。
チェキを見ると、推しの表情が少し違っていた。
昨日より、笑っている。
「……気のせい?」
スマホで撮影した写真と見比べた。
やっぱり違う。
そして、その日の夜。
新しい文字が増えていた。
『昨日はありがとう』
私はスマホを落とした。
昨日、私はチェキに向かって「大好き」と言った。
誰にも聞かれていない。
その日から、毎晩少しずつ文字が増えた。
『今日は何してたの?』
『誰と話してたの?』
『どうして返信してくれないの?』
怖くなって、チェキを捨てようと思った。
でも、捨てられなかった。
推しの顔を見ると、胸が苦しくなる。
まるで、本当に推しに嫌われるような気がした。
ある晩、スマホに通知が届いた。
推し本人の公式アカウントからだった。
『いつも応援してくれてありがとう』
嬉しくて、涙が出そうになった。
ところが、その直後。
もう一通届いた。
『でも、最近浮気してるよね?』
私は凍りついた。
昨日、私は別のアイドルの動画を見ていた。
そのことは誰にも話していない。
震える手でチェキを見る。
そこには、今までなかった文字があった。
『明日のライブ、来てくれるよね?』
翌日。
私はライブ会場にいた。
怖かった。
それでも、推しに会いたかった。
ライブが始まり、推しがステージに登場する。
いつも通りの笑顔。
歓声が響く。
そして、最後の曲。
推しが客席を見渡した。
その視線が、私のところで止まる。
推しが笑った。
そして、口だけを動かした。
「見つけた」
その瞬間、会場中のモニターが一斉に消えた。
暗闇の中、私のスマホだけが光った。
画面には、一枚の写真。
今この瞬間の私が写っている。
そして写真の隣には――
私の知らない誰かが立っていた。
その人は、私の肩に手を置いている。
顔は、推しだった。
写真の下に文字が浮かぶ。
『次は、私の番』
その直後、背後から耳元に声がした。
「ずっと応援してくれて、ありがとう」
私は振り返れなかった。
だって、その声は――
私が毎晩、動画で聞いていた声とまったく同じだったから。
読んでいただき、ありがとうございました。
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