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残業者

約5分で読める短編ホラーです。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。



時計を見ると、午後十一時を過ぎていた。


「……まだ終わらないのかよ」


 誰もいないオフィスで、俺は小さく呟いた。


 明日の朝までに提出する資料がある。定時はとっくに過ぎていたが、今日中に終わらせてしまいたかった。


 フロアには俺一人。


 そう思っていた。


 パソコンに向かっていると、突然、背後で椅子を引く音がした。


 ガタン。


 振り返る。


 誰もいない。


 空調の風だろう。


 そう思って仕事に戻った。


 しばらくすると、また音がした。


 ガタン。


 今度は、すぐ後ろ。


 恐る恐る振り返ったが、やはり誰もいない。


 気味が悪くなり、俺は防犯カメラの映像を確認した。


 廊下も、エレベーター前も異常なし。


 そして、自分のいるフロアの映像を見た。


 画面の中では、俺が一人で仕事をしている。


 午前十一時。


 十二時。


 午後六時。


 午後九時。


 どの時間にも俺しか映っていない。


 ところが、午後十時十三分。


 映像の端に、人影が現れた。


 俺のデスクの後ろ。


 黒い服を着た男が立っている。


「……誰だ?」


 映像を拡大する。


 男は俯いていて、顔が見えない。


 俺は慌てて後ろを振り返った。


 当然、誰もいない。


 もう一度モニターを見る。


 男はいなくなっていた。


 代わりに、俺のデスクに誰かが座っている。


 ――俺だった。


 映像の中の俺は、こちらを見ている。


 いや。


 違う。


 モニターの中の俺は、カメラではなく、その映像を見ている俺を見ていた。


 そして、ゆっくり口を動かした。


『まだ残業するの?』


 背後から声がした。


「……え?」


『もう帰ろうよ』


 振り返る。


 誰もいない。


 しかし、パソコン画面に新しい通知が表示されていた。


【残業申請が承認されました】


 申請した覚えはない。


 その下には、見慣れない項目があった。


【退勤予定:午前0時00分】


 時計を見る。


 23時59分。


 あと一分。


 その瞬間、オフィスの照明がすべて消えた。


 真っ暗な中、パソコンの画面だけが光っている。


 そこに新しい文字が表示された。


【退勤しました】


 ――誰が?


 俺は震える手でスマートフォンを取り出した。


 会社の勤怠アプリを見る。


 今日の勤務記録。


 出勤――午前8時31分。


 退勤――午前0時00分。


 そして、その下にもう一行。


【明日の出勤予定:午前8時31分】


 俺はその場から逃げるように会社を出た。


 翌朝。


 誰もいないはずのオフィスで、パソコンが一台だけ起動していた。


 画面には資料が開かれている。


 その資料の最後には、昨日までなかった一文が追加されていた。


『本日の残業者――一名追加』


 そして勤怠システムには、俺の名前の横に、


【在社中】


と表示されていた。

読んでいただき、ありがとうございました。

楽しんでいただけたら、感想や評価をいただけると今後の励みになります。

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