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裏返し

約5分で読める短編ホラーです。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。



 駅前の自動販売機でジュースを買ったとき、釣り銭の中に見慣れないコインが混じっていた。


 銀色で、片面には数字の「1」。

 もう片面には、見たことのない女の顔が刻まれている。


「外国のコインかな」


 そう思って財布に入れた。


 その夜、財布を整理していると、あのコインが床に落ちた。


 ――カラン。


 拾おうとした瞬間、妙なことに気づいた。


 表は「1」だったはずなのに、床に落ちたコインには女の顔が上を向いている。


 俺は何となく裏返した。


「……え?」


 数字の「1」の横に、小さな文字が刻まれていた。


 ――あなたの残り。


 意味が分からず、気味が悪くなってコインをゴミ箱へ捨てた。


 翌朝。


 目を覚ますと、枕元にあのコインがあった。


 女の顔が上を向いている。


「なんで……」


 俺はもう一度ゴミ箱へ捨てた。


 それから外出した。


 会社へ向かう途中、駅の階段で足を滑らせた。


 幸い大した怪我はなかったが、手のひらを擦りむいた。


 ポケットから財布を取り出すと、あのコインが入っていた。


 今度は数字の「1」が上。


 その瞬間、スマホが鳴った。


 母からだった。


『お父さん、亡くなった』


 心臓が止まりそうになった。


 父は病気だったが、昨日まで普通に話していた。


 震える手でコインを見る。


 数字の「1」。


 ――残り。


 そういう意味なのか。


 俺はコインを握りしめた。


 父の死を予告したのだとしたら、次は誰なのか。


 怖くなって、コインを海へ投げ捨てた。


 遠くで水面が光った。


 これで終わった。


 そう思った。


 その夜。


 ベッドに入った俺は、ふと枕元を見る。


 コインが置いてあった。


 女の顔が上を向いている。


 そして、今までなかった文字が刻まれていた。


 ――残り、0。


「……え?」


 次の瞬間、スマホが鳴った。


 画面には、自分の名前が表示されている。


 恐る恐る通話を取った。


『もしもし』


 聞こえてきたのは、俺自身の声だった。


『もう終わったよ』


「何が……?」


『俺が死んだこと』


 背筋が凍った。


 その瞬間、部屋のドアが開いた。


 誰もいない。


 ただ、廊下から女の顔をした何かがこちらを覗いていた。


 そいつは笑いながら、床にコインを一枚落とした。


 ――カラン。


 コインの表には「1」。


 裏には、俺の顔が刻まれていた。

読んでいただき、ありがとうございました。

楽しんでいただけたら、感想や評価をいただけると今後の励みになります。

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