一日一粒
約5分で読める短編ホラーです。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
最近、妙に体調がいい。
朝は目覚ましより先に目が覚めるし、仕事中も眠くならない。以前なら夕方には肩が重くなっていたのに、今では帰宅してからも平気で動ける。
きっかけは、通販で買ったサプリだった。
白いボトルに入った、名前も聞いたことのないサプリ。
広告には、
『毎日の健康を内側からサポート』
とだけ書かれていた。
一日一粒。
それだけだった。
飲み始めて三日目、効果を実感した。
一週間後には、疲れというものをほとんど感じなくなった。
二週間後。
ふと気づいた。
怪我をしても痛くない。
料理中に指を切った。血は出たのに、まったく痛みを感じなかった。
試しに頬をつねってみる。
痛くない。
怖くなって、サプリを飲むのをやめた。
その日の夜。
久しぶりに身体が重かった。
頭もぼんやりする。
そして、猛烈な空腹に襲われた。
冷蔵庫を開け、夢中で食べ物を詰め込んだ。
翌朝には、また元気になっていた。
不思議に思いながら会社へ向かう。
すると、同僚の佐藤が俺の顔を見て言った。
「最近、顔色よくなったよな」
「そうかな?」
「ああ。前よりずっと……」
佐藤はそこで言葉を止めた。
「……なんでもない」
その日の昼休み、俺はネットでサプリの名前を検索した。
商品ページは消えていた。
販売元も存在しない。
不安になって、保存していた商品画像を拡大する。
ボトルの裏側。
小さな文字で成分表が書かれている。
その一番下に、見覚えのない一文があった。
『一日一粒、生命維持に必要です』
俺は息を止めた。
そんな説明、買ったときにはなかった。
そして、その日の夜。
家に帰ると、テーブルの上に白いボトルが置かれていた。
捨てたはずなのに。
蓋を開ける。
中には、残り一粒だけ。
その粒の表面には、黒い点がいくつも浮かんでいた。
よく見ると、それは文字だった。
『明日から、二粒』
翌朝。
目覚ましが鳴る前に目が覚めた。
身体は軽い。
疲れもない。
ただ、喉が異様に渇いていた。
鏡を見る。
そして気づいた。
昨日まであったはずの小さな傷が、全部消えている。
爪を立てても痛くない。
歯を噛みしめても何も感じない。
そのとき、玄関のチャイムが鳴った。
ドアを開ける。
誰もいない。
足元に、小さな段ボール箱だけが置かれていた。
差出人は書かれていない。
中には、白いボトルが十本。
すべて同じ商品だった。
そして一番上に、紙が一枚。
『ご安心ください』
『あなたの身体は、もう人間のものではありません』
『これからは、こちらで維持します』
紙の裏には、こう続いていた。
『一日二粒を守ってください』
『あなたの中のものが、育ちきるまで』
読んでいただき、ありがとうございました。
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