茶柱
約5分で読める短編ホラーです。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
祖母の家には、古い急須があった。
俺が子どもの頃からずっと同じ場所に置かれていて、表面には細かなひびが走っている。祖母はそれを大切にしていた。
「この急須のお茶はね、最後の一滴まで飲んじゃいけないよ」
理由を聞いても、祖母は笑うだけだった。
ある冬の日、祖母が亡くなった。
葬儀を終えた夜、俺は一人で祖母の家に泊まった。
妙に喉が渇いたので、台所へ行く。
そこには、あの急須があった。
懐かしくなって、棚にあった茶葉を入れ、湯を注いだ。
しばらくして蓋を開けると、湯気の向こうに濃い緑色のお茶が見えた。
湯飲みに注ぐ。
最後の一滴が、ぽたりと落ちた。
その瞬間。
――コン。
背後から、何かを叩く音がした。
振り返る。
誰もいない。
気のせいだと思い、お茶を一口飲んだ。
そのとき、湯飲みの底に何かが沈んでいるのに気づいた。
髪の毛だった。
一本。
長く黒い髪。
気味が悪くなり、湯飲みを流しに置いた。
すると、
――コン。
また音がした。
今度は、すぐ後ろ。
振り返る。
誰もいない。
だが、急須の蓋が少しだけ開いていた。
俺は恐る恐る蓋を持ち上げた。
中には茶葉が残っている。
そして、その茶葉の間に――
小さな白い指が一本、混じっていた。
「……っ」
思わず急須を落とした。
床に散らばった茶葉の中から、声がした。
「最後まで……飲んで」
祖母の声だった。
俺は叫びながら家を飛び出した。
翌朝、怖さを紛らわせるため、母に電話をした。
祖母の話をすると、母はしばらく黙ってから言った。
「おばあちゃん、昔から言ってたでしょう?」
「何を?」
「急須のお茶を最後まで飲むと、茶柱が立つって」
俺は息を呑んだ。
「……茶柱?」
「うん。昔、家族が亡くなる前には、必ず茶柱が立ったんだって」
電話を切ったあと、ふと台所を見る。
床に落ちた急須は、割れていた。
その中から、何かが伸びている。
黒く細いもの。
茶葉ではない。
髪の毛だった。
何本も、何十本も。
そして、その中央から一本だけ、白いものが立っていた。
まるで――
指が、茶柱のように。
その瞬間、背後で祖母の声がした。
「次は、誰のお茶にしようかね」
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